麻酔中の低血圧に何を使うか|昇圧薬の選び方を原因から考える
麻酔中に血圧が下がったとき、フローチャートをたどるのではなく「なぜ下がったか」から薬を選べるようにする ―― この記事はそのためのものです。受容体を3つ覚えるところから始めて、昇圧薬を1枚の地図に並べ、麻酔薬による低血圧・α2作動薬による徐脈・脱水・心不全・敗血症という原因別の対応まで進みます。読み終えるころには、フローチャートに頼らずに薬を選べるようになります。
この記事は獣医師向けに、低血圧の原因から昇圧薬を選ぶ道筋をまとめています。薬そのものの働きから知りたい方は昇圧薬をαとβで整理するをどうぞ。
まず受容体を3つ覚える
低血圧の治療は、突き詰めれば昇圧薬を使いこなせるかどうかにかかっています。そしてそのためには、カテコラミン受容体の話を避けて通れません。
カテコラミンとは体内で放出されるホルモンの総称で、特に交感神経終末から放出されるノルアドレナリンが主要な神経伝達物質です。これが受容体に結合し、それぞれの臓器で作用を発現します。
覚えるべき受容体は3つです。
| 受容体 | 作用 | 覚え方 |
|---|---|---|
| β1 | 強心作用(陽性変力・陽性変時) | 心臓を叩くムチのイメージ |
| α1 | 血管収縮(血管抵抗の上昇) | 血管を縛り上げるイメージ |
| β2 | 血管拡張 | α1の反対。ここだけ例外 |
β1とα1は名前と作用が素直に結びつきます。引っかかるのはβ2だけで、これはα1と逆に血管を拡げます。この3つを作用とセットで覚えてしまえば、後の薬の話はすべてこの組み合わせで説明がつきます。
なお、β1刺激で犬では心収縮力の増加が、猫では心拍数の上昇が前面に出やすいと言われます。ただしこれは受容体一般の種差というより、ドブタミンなど個別の薬での臨床観察として理解しておくほうが安全です。
昇圧薬を1枚の地図に並べる
薬を縦軸にβ作用の強さ、横軸にα作用の強さで並べると、全体像が1枚に収まります。
- 上に行くほど強心薬(心収縮力・心拍数を上げる)
- 下に行くほど血管収縮薬(血管抵抗を上げる)
| 薬 | α1 | β1 | β2 | 主な立ち位置 |
|---|---|---|---|---|
| ドブタミン | ±(高用量で+) | +++ | + | 主にβ1の強心薬 |
| ドパミン(中用量) | + | ++ | + | 強心寄り |
| ドパミン(高用量) | ++ | ++ | + | 両方 |
| アドレナリン | +++ | +++ | ++ | 両方とも最強 |
| ノルアドレナリン | +++ | ++ | − | 血管収縮+β1による少しの強心 |
| エフェドリン | ++ | ++ | + | 間接作用を持つ特殊枠 |
| フェニレフリン | +++ | − | − | 純粋な血管収縮薬 |
| バソプレシン | V1(非カテコラミン) | − | − | 別系統の血管収縮薬 |
対極にいるのがフェニレフリンとドブタミンです。この2つを両端に置いて、他の薬がその間のどこに位置するかを考えると整理しやすくなります。
薬ごとの性格
ドブタミン
主にβ1に働きます。おおむね5〜10 μg/kg/分以上ではβ2・α1も刺激しますが、α2には作用しません。
低〜中用量では心収縮力が上がって心拍出量は増えますが、β2による血管拡張で血管抵抗は下がります。血圧の式(平均血圧=心拍出量×血管抵抗)でいうと、片方が上がって片方が下がる形です。だから血圧は上がる方向に動くことが多いものの、上がらないことも珍しくありません。「強心薬を入れたのに血圧が動かない」という場面は、この構造から説明できます。
一方で10 μg/kg/分を超えると、血管抵抗も心拍数もむしろ上がる傾向があり、説明が逆転します。
用量は犬 2〜20 μg/kg/分、猫 1〜5 μg/kg/分程度です。犬では10 μg/kg/分以上で不整脈誘発性が問題になり、猫では高用量・長時間のCRIで痙攣の報告があります。犬猫とも、上限まで安全という薬ではありません。
ドパミン
用量によって効く受容体が段階的に変わる、という特徴があります。
| 用量 | 主に効く受容体 | 作用 |
|---|---|---|
| 1〜3(〜5)μg/kg/分 | ドパミン受容体 | 血管拡張、尿量の増加 |
| 5〜10 μg/kg/分 | β | ドブタミンに近いが血管拡張はやや弱い |
| 10 μg/kg/分〜 | β+α | 血管収縮が加わり血圧が上がりやすい |
ここで一つ注意があります。 低用量ドパミンで尿量が増えることは事実ですが、「だから腎保護になる」という臨床的含意は現在では否定されています。低用量(いわゆる腎用量)ドパミンは急性腎障害の予防にも死亡率の改善にも寄与しないことが、大規模RCTとメタ解析で示されています。
機序の説明も更新されています。かつては「腎血管の選択的拡張で腎血流が増える」と説明されましたが、現在は血行動態の改善と、近位尿細管でのナトリウム再吸収阻害の組み合わせによると考えられています。
「尿が出た=腎臓を守れた」ではありません。この誤解は現場に根強く残っているので、意識して切り離しておきましょう。
アドレナリン
αにもβにも極めて強く作用します。心臓を強く叩き、かつ血管も収縮させます。
CPRでは 0.01 mg/kg を用います。高用量(0.1 mg/kg)のルーチン使用は推奨されていません。
ノルアドレナリン
主作用はα、補助的にβ1もあります。血管収縮にβ1による少しの強心作用が加わるため、血圧が上がりやすい薬です。獣医領域でも近年よく使われるようになりました。
用量はおよそ 0.1〜0.5、必要なら1 μg/kg/分までです。施設によっては0.05から開始します。
フェニレフリン
純粋なα1作動薬でβ作用を持ちません。血管抵抗だけを上げる薬というイメージでよいでしょう。用量はおよそ0.5〜3 μg/kg/分です。
バソプレシン
カテコラミンではありませんが、血管収縮作用を持つ薬として昇圧管理でしばしば使います。カテコラミンが効きにくい状況で選択肢になります。用量はおよそ0.5〜2 mU/kg/分です。
エフェドリンはなぜ特別なのか
エフェドリンは、他のカテコラミンと性格が違います。間接作用を持つ薬はほかにもありますが(ドパミンも一部は神経終末でノルアドレナリンに変換されます)、間接作用が主役級なのはエフェドリンです。
直接作用と間接作用の両方を持ちます。 α・β両方の受容体を直接刺激するのに加えて、交感神経終末からのノルアドレナリン放出を惹起します。だから強心作用と血管収縮作用の両方を示します。イメージとしては「ノルアドレナリンをショットで打っているような薬」です。
この間接作用から、2つの臨床的な特徴が導かれます。
1. タキフィラキシーが起きる
内因性のノルアドレナリンを放出させて効かせる薬なので、反復投与を繰り返すと蓄えが枯渇し、だんだん効きが悪くなります。「さっきは効いたのに今度は効かない」は、この薬の性質です。
2. ショットで使えるが、持続時間は用量次第
通常のカテコラミンはCRIで流し続けないと効果が切れてしまいますが、エフェドリンはCRIではなくIVのショットで使う薬です。
ただし作用時間は用量に強く依存します。犬では0.2 mg/kg IVで血圧上昇は5分未満と一過性で、10分後の再投与でも追加の改善がなかったという報告(Chen 2007、臨床例の低血圧犬)がある一方、0.25 mg/kgでは0.1 mg/kgより血圧上昇が大きく長く続いたという報告(Wagner 1993、イソフルラン麻酔の健常犬)もあり、教科書(VAA 6e 第21章)はこれを「30分程度まで持続」と要約しています。教科書的な推奨は犬0.2〜0.25 mg/kg IV、猫0.1 mg/kg IMです。「一発打てば効果が続く」と当てにしないほうがよいでしょう。特に低血圧が続いている症例では、数分で切れることを前提に次の手を用意しておきます。
このため、短時間の処置で一時的に低血圧を凌ぎたいときに重宝します。CT撮影や避妊去勢手術などが典型的な出番です。
犬と猫で反応が違う
経験上、犬にエフェドリンを打つと徐脈になり、血圧がなかなか上がらないことがあります。迷走神経反射のように見え、アトロピンを打つと血圧が上がってきます。アトロピンを先に打ったうえでエフェドリンを使うと、血圧は上がりやすくなります。
一方猫では心拍数がかなり上がって血圧が上がります。したがって、HCMや動的流出路閉塞があって徐脈気味に管理したい症例では注意が必要になります。
この犬猫差については、2025年に「犬では先行するアトロピン投与が必要だが猫では不要」とする報告が出ています(Seki 2025)。経験則が文献で裏づけられつつある領域です。
フローチャートの限界
麻酔を始めたばかりの人に低血圧の対応を説明するときは、次のようなフローチャートをよく使います。
- 麻酔深度を確認し、気化器のダイヤルを調節します
- 心拍数を確認し、低ければアトロピンを投与します
- 輸液を投与します
- それでもだめなら強心薬です
- さらに血管収縮薬を使います
これは出発点としては悪くありません。しかしこの順番どおりに進めると、介入が遅れることがあります。
そこで勧めたいのが、原因を考えて、その原因に対してアプローチするやり方です。前編で整理した「平均血圧=心拍出量×血管抵抗」の地図を、そのまま治療の地図として使います。
原因から考える――麻酔薬による低血圧
プロポフォールやイソフルランなど、導入・維持でよく使う薬は何が原因で低血圧を起こすのでしょうか。
| 起きていること | 式のどこ |
|---|---|
| 血管拡張作用 | 血管抵抗が下がる |
| 心収縮力の低下 | 1回拍出量が下がる |
| 静脈の拡張 | 前負荷が下がる |
動脈だけでなく静脈も拡張する点は見落とされやすいところです。これで前負荷まで下がるため、3方向から平均血圧が押し下げられます。
だから対応はこうなります。
- まず使用量を減らす(原因そのものを減らす)
- 血管抵抗の低下に対して → 血管収縮薬
- 心収縮力の低下に対して → β作用を持つ強心薬
- 前負荷の低下に対して → 輸液蘇生、または静脈系を収縮させる薬
「低血圧だから昇圧薬」ではなく、「血管が拡がっているから血管を締める」「収縮力が落ちているから叩く」と対応させていきます。
原因から考える――α2作動薬による徐脈
レミフェンタニルのようなオピオイドや、デクスメデトミジンなどのα2受容体作動薬では、心拍数の低下が低血圧の主因になることが多くなります。対応は心拍数を上げること、すなわちアトロピンまたはグリコピロレートです。用量はアトロピン0.02〜0.04 mg/kg IV、グリコピロレート0.005〜0.01 mg/kg IV程度です。
「α2作動薬にアトロピンを併用していいのか」
よく聞かれる質問です。答えは時期によります。α2作動薬が体内でたどる経過を追うと理解できます。
第1相:末梢の血管平滑筋に作用
血管平滑筋にある(接合部後)α2受容体に作用して血管をぎゅっと収縮させます。血圧が急上昇します。これに対して体は圧受容器反射(バロレフレックス)を起こし、「血管のトーンが高いから心臓は頑張らなくていい」という形で心拍数を落として代償します。
第2相:中枢性の作用が前面に出る
血漿濃度のピークが下がるにつれて末梢での血管収縮は減弱し、血圧はノーマルに戻ります。ところが心拍数は、中枢性の交感神経抑制によって下がったまま残ります。
つまり、高血圧かつ徐脈の時期(第1相)は、体が反射でわざと徐脈を作っている状態です。ここでアトロピンを打ってその代償を解いてしまうと、血圧が高いまま心拍数まで上がり、心筋仕事量と酸素消費量が跳ね上がります。重度の高血圧と頻脈性不整脈を招きえます。加えて、高い後負荷のまま心拍数だけ上げると心拍出量はかえって悪化しえます。
一方、血圧が下がってきた第2相で徐脈が残っている場合には、心拍数を上げることが選択肢になります。ただし全身麻酔の前投薬としてα2作動薬に抗コリン薬を併用することの妥当性は、今なお十分に検証されていない点は押さえておきましょう。
要するに、血圧を見てから決める――これがα2作動薬とアトロピンの併用に対する答えです。ルーチンの併用は推奨されません。第2相であっても心筋酸素消費は増えるため、アチパメゾールによる拮抗という選択肢も並べて考えたいところです。
原因から考える――脱水・心不全・敗血症
脱水
脱水している動物では前負荷が下がり、1回拍出量が下がっています。
治療の本体は術前ないし術中の輸液管理です。静脈を収縮させるノルアドレナリンのような薬も有用ですが、これは輸液が効くまでの橋渡しと位置づけます。循環血液量が足りない状態で昇圧薬だけを使うと、血圧の数字は上がっても組織灌流はかえって悪化しえます。
心不全・僧帽弁閉鎖不全
左心不全や僧帽弁の逆流がある症例では、収縮力や前方への駆出そのものが問題になります。輸液で前負荷を足す戦略は裏目に出やすく、症例ごとに何が律速かを見極める必要があります。
敗血症性ショック
血管が極度に拡張して血管抵抗が落ちる病態です。
以下はヒト領域のガイドライン(Surviving Sepsis Campaign 2021)からの外挿である点を断ったうえで――対応は輸液蘇生を行ったうえで、ノルアドレナリンを第一選択とし、必要に応じてバソプレシンを追加します。心機能の低下を伴う場合はドブタミンの追加を検討します。同ガイドラインで、ドパミンは第一選択から外れています。
心エコーを併用する
最近は、モニターに加えて心エコーで心内腔のボリュームや収縮力を推定することも増えてきました。ただし注意が要ります。
壁の動きだけでは収縮力は判断できません。 血管が拡張していれば高拍出状態になって壁が大きく動いて見えますし、デクスメデトミジンなどで血管が締まっていれば壁が動いていないように見えます。しかし後者は収縮力が落ちているわけではありません。
複数のモニターを組み合わせ、何が起きているかを想像し、血圧が下がった原因を考えたうえで薬を選びます。初心に戻ってフローチャートを使ってもかまいません。そこは自由ですが、原因を考える癖だけは持っておきたいところです。
まとめ
受容体は3つ
- β1=強心、α1=血管収縮、β2=血管拡張(ここだけ例外)
薬の性格
- ドブタミン=純粋な強心薬。β2で血管が拡がるため血圧は上がりきらないことがある
- ドパミン=用量で顔が変わる薬。低用量の「腎保護」は否定されている
- ノルアドレナリン=血管収縮+少しの強心。敗血症性ショックの第一選択
- フェニレフリン=純粋な血管収縮薬
- エフェドリン=間接作用を持ち、タキフィラキシーを起こしやすい薬。IVショットで使い、作用は短時間かつ用量依存(長もちを当てにしない)。短時間の処置向き
治療の考え方
- フローチャートは出発点。ただし介入が遅れることがある
- 原因を考え、その原因に対してアプローチする
- 麻酔薬なら「まず使用量を減らす」が最初の一手
- α2作動薬とアトロピンの併用は血圧を見てから決める
- 脱水では輸液が本治療で、昇圧薬は橋渡し
薬を覚えることが目的ではありません。低血圧を見たときに、血圧の式のどこが壊れているかを切り分け、そこに効く薬を選べる状態を目指しましょう。切り分けの地図については前編で扱っています。
動画で見る
本記事の元になった講義を、全編テロップ付きの動画で公開しています。
昇圧薬と低血圧への対応(Part 2)(16分・全6章)
前編の循環生理と血圧の測り方(Part 1)(36分)、および呼吸生理と人工呼吸管理(40分)も同じシリーズです。
参考文献
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- Wagner AE, Dunlop CI, Chapman PL. Effects of ephedrine on cardiovascular function and oxygen delivery in isoflurane-anesthetized dogs. Am J Vet Res. 1993;54(11):1917–1922. PMID 8291773
本記事はPetNapのインターン向け講義「循環生理と血圧モニタリング」の後半を再構成したものです。講義中は用量の詳細をスライドで示していたため、本稿では文献値をもとに主要な薬剤の用量を本文に補いました。あわせて、低用量ドパミンの腎保護効果が現在は否定されていること、ドブタミンの作用が用量で反転すること、エフェドリンの作用時間が用量依存であることを追記しています。本稿の参考文献は全件、Crossref でDOIと書誌の一致を確認しています(Wagner 1993 は DOI が付与されていないため PubMed ID(PMID 8291773)で照合)。監修:風間 匠(DVM, MS, DACVAA|米国獣医麻酔疼痛管理専門医)
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