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吸入麻酔薬とMACの考え方ダイヤルの数字に、根拠を持たせる

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気化器のダイヤルを2%にする ―― その2%に、根拠を持って答えられるでしょうか。この記事はそこを埋めるためのものです。麻酔の深さを読む2つの方法から始めて、MACとは何か、外科に必要な濃度がなぜ低血圧を連れてくるのか、そして併用薬でMACがどこまで下がるのかまでを順に追います。動物看護師の方に向けて書いています。読み終えるころには、ダイヤルの数字を自分の言葉で説明できるようになります。

麻酔の深さは、2つの方法で読む

麻酔中の動物が「今どのくらいの深さにいるのか」を評価する方法は、大きく2つあると言われています。

1つ目は古典的な方法です。目の位置、顎の緊張、眼瞼反射といった身体所見から、今の深さ・浅さを判断します。

2つ目は計算を使う方法です。モニターに表示される呼気のイソフルラン濃度・セボフルラン濃度(ETイソ、ETセボ)を見て、「この濃度なら耐えられるはずだ」と客観的に評価します。

この回では、その2つを順に見ていきます。


目と瞳孔は、深くなると「行って、戻る」

古典的な麻酔深度は、1から4までのステージで表されます。もともとエーテル麻酔の時代に整理されたものです。

ステージ 目の位置 瞳孔 眼瞼反射 顎の緊張 外科刺激への反応 呼吸・循環
1(覚醒) まっすぐ、正中 開いていない あり あり(筋弛緩なし) あり 正常
2(興奮期) 開いてくる あり(敏活) あり あり(まだ手術はできない) 呼吸が浅く速い(無呼吸や過換気のことも)、心拍数が増える
3 まっすぐ→やがて腹側かつ正中に落ちる 小さくなる 残る→やがて消える 弱まる 弱まる→消える 呼吸が深くなる
4(過量) 元に戻ってまっすぐ 急激に散大 なし 消失 なし 著明な低血圧・微弱な脈・徐脈・毛細血管再充満時間(CRT)の延長/低換気から呼吸停止

注意 ステージ4は「深い麻酔」ではなく「過量」です
ステージ4は、麻酔が効きすぎて心肺機能が壊れかけている段階です。瞳孔が急に開き、脈が弱くなり、呼吸が止まりかけ、そして目が正中に戻ってまっすぐになる。ここで気づかなければ急速に死に至ります。
このサインを見たら、深度を「少し浅くする」ではなく、気化器をオフにする → 100%酸素で補助換気 → 循環を確認する(血圧・脈の触知・CRT)の順で、即座に動いてください。
(VAA 6e 第10章)

ステージ3の最初の部分(light plane)が、目標にしたい深度と言われています。ただしここは「手術の刺激には反応が残りうる」領域でもあります。後半で出てくる「1 MACだと刺激で起きてしまう」という話は、まさにこの領域のことです。だからこそオピオイドや局所麻酔で刺激の側を弱め、この浅めの深度を成立させにいく――という順序になります。

ここで押さえたいのは、目と瞳孔の動きが一方向ではなく、行って戻ることです。

  • 目の位置は、まっすぐ → 腹側かつ正中 → また戻ってまっすぐ
  • 瞳孔は、大きい → 小さい → また大きい

つまり、動物と目がまっすぐ合うときは、すごく浅いか、すごく深いかのどちらかです。この1点だけでも、知っているかどうかで判断が変わります。

いちばん分かりやすいのは、第三眼瞼が出て、目が正中(腹側)に寄っている瞬間です。そのうえで、眼瞼反射が消える瞬間か、まだ少しあるかな、というあたりをターゲットにして麻酔をかける、というのが実用的な目安になります。

注意 この目安が効くのは「吸入麻酔薬が主役のとき」です
目の位置・眼瞼反射・顎の緊張は、もともとエーテル単剤の観察から作られた指標です。現代のように複数の薬を組み合わせると、個々のサインは薬ごとにバラバラに動きます。

  • ケタミンを併用していると、十分な深さでも眼球が正中に留まり、眼瞼反射も残ります。ここで「浅い」と判断して気化器を上げると、過量の方向へ押し込むことになります。
  • 抗コリン薬を使うと、心拍数から深さは読めなくなります。
  • 若齢の犬は、浅い深度でも顎の緊張がほとんどないことがあります。

ですから、目や反射は「単独の判定基準」ではなく、次に説明する呼気ガス濃度(ETイソ、ETセボ)と必ず突き合わせて使ってください。片方だけで判断しない、というのがこの回の一番の要点です。
(VAA 6e 第10章)

補足 ステージ3の心拍数の動きは、エーテル麻酔での記述をそのまま持ってきたものです。イソフルランやセボフルランでは、血圧の動きに応じて心拍数が上がることも下がることもあり、心拍数だけで深さを読むことはできません。ただし深くなれば徐脈は起こります――「イソ・セボだから徐脈は関係ない」ではない点に注意してください。


顎の緊張、脳波、そしてその代わりになるもの

顎緊張は骨格筋の緊張を反映していて、手足の力の入り具合と同じものを見ています。麻酔をかけ始めた頃の顎緊張を覚えておいて、それと比べて「少し硬いかな、浅いかな」と判断していく方法です。

ただしこれはかなり主観的です。風間は「教えるときには使いますが、自分自身の指標としてはあまり使わないほうです」と話しています。

動物が本当に起きているのか起きていないのかは、実際には脳波を見ないと分かりません。けれども脳波にはいろいろなハードルがあります。そこでもう1つの客観的な指標として使えるのが、ガス麻酔の濃度です。

結論から言うと、犬で、ETイソフルランでオピオイドを併用しているなら、おおむね1%前後で管理していれば、起きてしまう症例は少ないでしょう、という考え方をします。(猫については後半で改めて触れます。犬の数字をそのまま猫に持ち込めない理由があります。)あらかじめ目標のパーセンテージを自分の中で予想しておき、その濃度を維持しながら、目や反射といった主観的な情報と合わせて判断していきます。これが深度の読み方です。

その「予想のしかた」を支えるのが、次に出てくるMACという考え方です。


吸入麻酔薬は、肺から入って肺から出る

吸入麻酔薬は、注射麻酔薬と比べて体の中での動きがとてもシンプルです。

注射麻酔薬 吸入麻酔薬
入口 血液(静脈内) (濃度勾配に従って血液へ)
効く場所 作用部位(脳など)
代謝 ほとんどが肝臓 ほとんど代謝されない(イソフルランで約0.2%、セボフルランで2〜5%)
出口 腎臓から排泄 また肺から出ていく

入れたものが、ほぼそのままの形で出てきます。肝臓の代謝にほとんど頼らず、腎臓が最後の関門でもありません。ここが注射麻酔薬との大きな違いです。

体の中での動き方は、蛇口から水を溜めていくイメージで捉えると分かりやすくなります。肺胞の中の濃度が上がる → 血液との濃度勾配で自然に拡散する → 血液が回る途中で、まだ満たされていない臓器へ流れ込んでいく、という順番です。麻酔器をオフにして蛇口を切ると、この図がひっくり返ります。脳や脂肪のほうが濃くなるので、そこから血液へ、血液から肺胞へ戻り、肺から出ていきます。

臓器の間を、濃度勾配に従って動いていく――これが吸入麻酔薬の動き方のすべてです。

作用機序と、体に出る影響

作用機序そのものは、実はあまり分かっていません。一般的に言われているのは、脳には興奮性に働く神経伝達(NMDAなど)と抑制性に働く神経伝達の2つがあり、吸入麻酔薬は興奮性を抑えるか、抑制性を活性化するかによって脳を休める、という説明です。

そして、次の作用が有名な効果として知られています。

  • 呼吸抑制
  • 心収縮力の低下
  • 血管抵抗の低下・血管拡張
  • 低体温

MACとは何か

MACは Minimum Alveolar Concentration の略で、日本語では肺胞内のガスの最小濃度と訳されます。単位は%です。

概念としては、その吸入麻酔薬に固有の「眠らせる強さ」を表しています。注射麻酔薬でいうED50(50%の動物に作用を及ぼすための血中最小濃度)に当たるものです。

では何の「最小」なのか。実験的にはこう決められています。

ある濃度のガスで動物に麻酔をかけ、外科的な刺激と同じくらいの強い刺激を与えます。100頭のうち50頭が動かず、50頭が何かしらの反応を示す、そのときの肺胞内のイソフルラン/セボフルラン濃度が1 MACです。

ここから、大事な性質が1つ出てきます。MACの数字が小さい吸入麻酔薬ほど、眠らせる強さが強いということです。

ここで1つ、言葉を正確にしておきます。MACが測っているのは厳密には「眠らせる強さ」ではなく、「刺激を加えても動かなくさせる強さ」です。しかもこの「動かない」は、脳ではなく主に脊髄が担っていることが分かっています。

実務上の意味は2つあります。動かない=意識がない、ではありません(筋弛緩薬を使う場面では、ここが決定的に重要になります)。逆に、意識が消えるのは不動化よりずっと低い濃度(1 MACの0.3〜0.5倍)なので、1 MAC前後で維持できていれば「気づかれている」心配はまずない、とも言えます。この記事で「眠る」「眠らせる」と書いているのは、正確には「動かない」のことだと思って読んでください。

もう1つ、MACには哺乳類の間では大きな差が少ないという性質があります。犬でも猫でもマウスでも、ゾウやキリンでも、人でも、おおむね1〜2%台という同じオーダーに収まります。だからこそ、扱いやすい指標になっています。

ただし「差が少ない」は「同じ」ではありません。フェレットは猫よりやや高めで、鳥類は種によって1.1%から2.5%まで開きがあります(鳥には肺胞がないので、そもそも「minimum anesthetic concentration」と呼び直されます)。そしてMACが近いことと、その動物が同じ深さに耐えられることは別です。呼吸が止まる濃度や循環がもたない濃度は種ごとに違うので、犬猫以外では必ずその種の値を確認してください。


イソフルランとセボフルラン、どちらが強いか

1 MACの値を並べると、こうなります。

イソフルラン セボフルラン
1.3% 2.3%
1.6% 2.6%(※)

覚え方は簡単で、イソフルランの値に1を足すとセボフルランになる、と風間は覚えているそうです。

犬にイソフルランを使う場合、1.3%にすると50頭が眠っていて50頭が刺激に反応します。セボフルランは2.3%まで上げないと同じ状態になりません。言い換えると、同じ濃度で使ったときに眠らせる強さが強いのはイソフルランです。

補足 動画には、猫のイソフルランMACを言い間違えている箇所があり、画面上の訂正テロップで直しています。猫のイソフルランMACは約1.6%です(2.3%は犬のセボフルランの値)。

※猫のセボフルランについても、動画では2.3%と言っている箇所があります。上の「イソに1を足す」という覚え方と、後に出てくる1.5 MACの計算値(猫セボ3.9%)からは2.6%になります。


刺激の強さを変えると、MACも変わる

MACという言葉には、実はいくつも種類があります。MAC-BAR、MAC-NM、MAC extubation といった言葉を聞いたことがあるかもしれません。

これらは何かというと、「どのくらいの強さの刺激に対して、何を、何%の動物で抑えるか」の設定を変えたものです(MAC-NM だけは別で、これは「no movement」の略、つまり古典的MACそのものの言い換えです)。古典的なMACは「外科的な刺激と同じ強さ」に対して「50%が動かない」濃度でした。その刺激の強さと判定基準を動かしていくと、いろいろな指標になります。

低いほうから並べると、健忘(約0.25倍)<意識が戻る境目(0.3〜0.5倍)<動かなくなる=古典的MAC(1倍)<気管挿管ができる<自律神経反応まで抑えるMAC-BAR(1.5〜2倍)という階層になっています。「動かない」より「血圧と心拍が跳ねない」ほうが、ずっと高い濃度を要求する――これがこの階層の一番のポイントです。

刺激の強さを左から右へ並べると、こうなります。

刺激・基準 古典的MACに対する倍率
MAC-awake(意識が戻る境目) 半分の個体で意識が戻る/戻らない。この濃度域でようやくチューブを我慢できなくなる 約0.3〜0.5倍
古典的MAC 外科的刺激に50%が反応しない 1倍
外科的なMAC 切皮の刺激に95%が反応しない 約1.3〜1.5倍
MAC-BAR(自律神経反応まで抑える) 切皮に対する血圧・心拍・カテコラミンの反応を半分で抑える 約1.5〜2倍

※いちばん上の0.3〜0.5倍という数字の意味に注意してください。これは「この濃度で処置を続けてよい」という意味ではありません。ここは意識が戻るか戻らないかの境目(MAC-awake)で、抜管に向かって濃度を落としていくときの目安です。逆に、気管挿管をするために必要な濃度は、古典的MACよりも高い位置にあります。浅いまま挿管しようとすると、とくに猫では喉頭痙攣を招きます。なおMAC-BARの倍率は教科書によって幅があり、1.3〜1.5倍とするものもあります。

つまり、手術を始めるには、古典的な1 MACよりかなり高い濃度で維持しないと耐えられないということです。

犬のイソフルランで計算してみます。古典的MACの1.3%に1.5をかけると約1.9%。だいたい2%くらいにしておかないと、侵襲が加わったときに起きてしまう、という計算になります。

風間自身の印象とも合っている、と話しています。オピオイドを少なめに使ったり、他の鎮静薬を使わずにプロポフォールだけで導入した犬猫では、イソフルランを1.3%(=1 MAC)で維持しようとすると、刺激を加えたときに起きてしまうことが多いといいます。2%くらいにしていると起きない。数字と実感が一致する部分です。

外科的なMACは、普通のMACの約1.5倍。この「1.5」はキーポイントとして覚えておくと、いろいろな場面で計算の起点になります。

補足 「動かない」だけを見れば、実は1.2〜1.4倍で95%以上の動物が動かなくなります(VAA 6e)。1.5倍という数字には、それより一段上――血圧や心拍の反応まで抑えにいく分――が含まれています。だからこそ次の節の低血圧が起きるわけで、この「余分」をオピオイドや局所麻酔で肩代わりさせるのがバランス麻酔の狙いです。なお講義では「1.3から1.5倍」と幅を持たせて話しており、この記事では計算の起点として1.5を使っています。

1.5 MACを実際の濃度にすると、こうなります。

1.5 MAC イソフルラン セボフルラン
約2% 約3.5%
約2.4% 約3.9%

他に何も薬を使っていなければ、モニターのETイソ・ETセボをこのくらいにしておけば、まず起きないだろう、という目安です。


外科に必要な濃度は、低血圧を連れてくる

ところが、ここに問題があります。1.5 MACあたりで維持していると、低血圧になると言われているのです。

他の薬を使わずに動物を眠らせておこうとすると、高いMACが必要になります。けれども、その濃度で維持すると血圧が下がります。この板挟みへの対処は2つです。

  1. MACを下げるような何かをしてあげる
  2. 低血圧そのものに対処する

ただし、ここで1つ釘を刺しておきます。「MACを下げる薬を足す」=「循環がよくなる」ではありません。吸入麻酔薬の量を減らせること自体は確かな利点ですが、足した薬にもそれぞれの循環作用があります。

  • アセプロマジンは、血管を広げて血圧を下げる薬です。低血圧の症例に「MACを下げるため」に足すのは、逆方向の一手になります。
  • α2作動薬は血圧こそ保たれますが、心拍出量は大きく落ちます。α2でMACを下げたほうが吸入麻酔薬単独より循環がよくなるのかどうかは、教科書レベルでもまだ決着していません。
  • オピオイド(フェンタニル、レミフェンタニル)は、この点では循環への負担が最も軽い選択肢です。ただし徐脈と呼吸抑制は用量なりに出ます。

「何を足すか」は、その症例の循環がどこで詰まっているかで変わります。あとで出てくる表の数字は「どれだけMACが下がるか」だけを示していて、「循環にとってどれが得か」は示していません。

低血圧そのものへの対処は、このシリーズの第1回・第2回で扱いました(手順はそちらを参照してください)。この回で扱うのは、1つ目のMACを下げる側です。

そのうえで、目や反射といった主観的な評価を併せて「動物が適切な深さの領域にいる」ことを確認しながら進めていきます。この組み立てを身につけてもらえたら、というのがこの回の狙いです。


MACを上げる因子・下げる因子

MACには、上げる因子と下げる因子があると言われています。

MACを上げる(濃度が余計に要る) MACを下げる(低い濃度で足りる)
若い個体 高齢の個体、体調の悪い個体
中枢神経を刺激する薬(エフェドリンなど) 低体温
高体温 併用薬(鎮静薬・鎮痛薬・注射麻酔薬)

臨床の感覚とも合うところです。若い子は高いイソフルラン・セボフルラン濃度を要求することが多く、年をとった子や状態の悪い子は低い濃度でも維持できることが多くあります。エフェドリンなど中枢を刺激する薬を使うと急に動物が起きることがありますが、これはMACの要求量が増えるためだと言われています。

補足 「若い=MACが高い」がそのまま当てはまるのは若齢の一般論で、新生子から幼若齢の動物ではむしろMACが低くなります(年齢とMACの関係は、幼い側と高齢側の両端で低くなる形をしています)。中枢神経と神経筋接合部が未熟なためです。
さらに幼い個体は低体温になりやすく、低体温それ自体もMACを下げます(体温が1℃下がるごとに4〜5%)。「もともと低い」+「体温低下でさらに低い」が重なるので、幼若齢では気づかないうちに過量になりやすくなります。若齢だからと濃度を高めに構えるのは、この層では逆方向です。

補足 高齢側の数字も挙げておくと、ビーグルでイソフルランMACは2〜3歳で1.82%、11歳で1.45%という報告があります。「年をとった子は低い濃度で維持できる」という現場の感覚は、数字にも出ています。


併用薬で、MACはどこまで下がるか

最も実用的なのが、薬を足してMACを下げるという手です。代表的な薬のMAC低下率は次のとおりです。

単位について(先に確認してください) 表中のγ(ガンマ)は μg/kg/min です。μg/kg/hr ではありません(1γ=60 μg/kg/hr)。たとえばフェンタニル0.2γは12 μg/kg/hr、0.8γは48 μg/kg/hr に当たります。ここを取り違えると、思ったほどMACが下がらないまま気化器だけ絞ることになります。

MACの低下 補足
α2作動薬(メデトミジンなど) 40〜50%程度 下げ幅が大きい
ベンゾジアゼピンミダゾラムなど) 単回投与では小さい/持続投与では用量依存で最大約30%(天井あり) 鎮痛作用はない。健康な成体の犬猫では逆に興奮(発声・不快)を起こすことがある
アセプロマジン 用量依存。犬で0.2 mg/kg ならイソフルラン要求量が約48%低下という報告がある(VAA 6e 第22章) 鎮痛作用はない(MACは下がるが痛みは取れていない)。機序は不明。臨床で使う量(0.01〜0.05 mg/kg)ではもっと控えめ。それ自体が血圧を下げる薬なので、低血圧の症例には向かない
モルヒネ 0.5 mg/kg で約17% 臨床用量では下げ幅が小さい
フェンタニル 0.2γ(=12 μg/kg/hr)で約50%、0.8γ(=48 μg/kg/hr)で64% 用量依存性。おおむね50〜60%
レミフェンタニル 0.3γ(=18 μg/kg/hr)で60%、0.6γ(=36 μg/kg/hr)で70% 用量依存性。影響が大きい
リドカイン 犬で20〜30%程度 犬のみ。猫では使わない――猫では鎮痛効果が確認されず心血管抑制だけが出るため、全身投与(CRI)は非推奨
ケタミン 20〜40%程度 用量依存性ではなく、下げ方が不確か。大脳皮質を興奮させる作用があるためではないかと言われる

この表から読めることがいくつかあります。

術中に起きてしまったからミダゾラムを足す、は当てになりません。ベンゾジアゼピンは持続投与すればMACを最大3割ほど下げますが、そこで頭打ちになります。そして術中に足す使い方――単回で入れる――では効果が小さく、持続時間も短いものです。さらに、健康な成体の犬猫では逆に興奮させてしまうことが知られています(体調の悪い動物や高齢・新生子では、逆に鎮静がよく効きます)。「起きたからミダゾラム」は、狙った方向に動かない手です。

モルヒネ単独の避妊・去勢で、イソフルランをアグレッシブに下げていくと起きてしまう子が多いのも、ここから来ています。用量を大きく上げれば下げ幅も大きくなりますが、臨床用量では小さい、と覚えておくとよさそうです。

重症例でフェンタニルやレミフェンタニルの用量を上げていくのは、その分イソフルラン濃度を下げられるからです。ただし用量を上げれば徐脈と呼吸抑制も用量なりに出ます。高用量域では自発呼吸が保てなくなることが多いので調節呼吸の準備を、徐脈には抗コリン薬を用意しておきます(犬では、フェンタニルによる徐脈を抗コリン薬で治療してもMACの下がり幅は変わらず、循環動態だけが改善したという報告があります)。

なお、リドカインCRIは犬のプロトコルであって、猫にそのまま持ち込めません。猫では痛みの閾値が上がらないうえ心血管抑制が出るため、全身投与は避けます(局所への使用は別です)。犬の標準的なバランス麻酔が猫では成立しない、という典型例です。

そして、猫はオピオイドでMACが下がりません。これは犬との一番大きな違いです。健常猫にフェンタニルを単独で入れても、イソフルランのMACは統計的に有意には下がらなかった(1.87%→1.82%)という報告があります。機序としては、μオピオイドが脳内のノルアドレナリン放出を促し、それがα1受容体を刺激してMACを押し上げ、相殺してしまうためと説明されています。実際、α1を遮断する薬(アセプロマジン、トラゾドン)やデクスメデトミジンを併せると、猫でもオピオイドのMAC低下が現れます(トラゾドン+デクスメデトミジン+フェンタニルで49%低下という報告があります)。

実務上の意味は明確です。「オピオイドを入れたから、猫でもイソフルランを1%まで下げられる」とは考えないでください。猫のイソフルラン1 MACは1.6%ですから、1%は0.63 MACしかありません。猫でMACを下げたいなら、α2作動薬やケタミン、そして局所麻酔ブロックのほうが確実です。


まとめ

  • 麻酔深度の評価には、古典的な身体所見呼気ガス濃度の2つがある
  • 目の位置は「まっすぐ→腹側正中→またまっすぐ」と行って戻る。目が合うときは、すごく浅いか、すごく深いか。深い側(ステージ4)は「深い麻酔」ではなく過量で、気づかなければ死に至る
  • MACは吸入麻酔薬の強さの指標。数字が小さいほど「刺激で動かなくさせる」力が強い(犬イソ1.3%、犬セボ2.3%、猫イソ1.6%)
  • 外科に必要な濃度は、古典的MACの約1.5倍。だがその濃度で維持すると低血圧になる症例が多い
  • だから薬を足してMACを下げる。α2作動薬で40〜50%、フェンタニル/レミフェンタニルで50〜70%、リドカインは犬で20〜30%(猫では使わない)、ケタミン20〜40%。ベンゾジアゼピンは単回では小さい
  • ただしMACが下がる=循環がよくなる、ではない。そして猫ではオピオイドでMACが下がらない――犬の引き算をそのまま猫に持ち込まない

組み立ての順序はこうなります。

  1. 術前に、狙うパーセンテージを計算しておきます。犬なら外科的イソフルランは約2%。フェンタニルでMACが半分になるなら、約1%で維持できるだろうと見積もります。猫ではこの引き算が成り立ちません(上記)。
  2. 実際にその濃度にして、動物の深度を評価します。目の位置、瞳孔、眼瞼反射、必要なら顎緊張。
  3. 浅いと感じたら、フェンタニルを上げるか、イソフルラン濃度を上げるかを選びます。このバランスを取っていくのがバランス麻酔です。

こうして目標の数字を持ったうえでダイヤルを設定していくと、うまい麻酔ができるようになっていく――というのが、この回で持ち帰ってほしい考え方です。


この記事の元になった講義

VT薬理学セミナー 第8回「吸入麻酔薬とMACの考え方」(28分59秒)
https://youtu.be/DpBhWDi-Hl4

講師:風間 匠(DVM, MS, DACVAA/米国獣医麻酔疼痛管理専門医)

※本記事は2023年12月に収録した講義をもとに構成しています。薬の効き方や量の考え方は変わりませんが、製剤の入手性や法令上の扱いは収録後に変わっているものがあります。


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