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ケタミンという薬目は開いているのに、意識はない

公開 最終更新

ケタミンは導入にも不動化にも鎮痛にも使えるのに、「使いにくい薬」という印象を持たれがちです。この記事はその印象の中身を分解します。目が開いたまま意識だけが切れる「解離」とは何か、なぜ血圧は上がるのに心筋は抑制されているのか、単独で挿管できないのはなぜか、猫で作用が延びる理由まで。動物看護師の方に向けて書いています。読み終えるころには、ケタミンを置く場所が決まります。

いろいろな場面に登場する薬

ケタミンは昔からいろいろな動物に使われてきた、分かっていることも多い薬です。用途が1つに定まっていないのが特徴で、次のような場面に登場します。

  • 導入薬として
  • 不動化の手段として。静脈内に打つと動物が動かなくなるので、状態が安定している症例なら、その間に酸素化を進めるといった使い方ができます
  • 鎮痛薬として、補助的に。オピオイドとは違うメカニズムの鎮痛作用を持っています

一方で、考えなければならない副作用もあります。私は日本にいたときは使いづらい薬なのかなと思っていたのですが、渡米してみると意外とそういうことはありませんでした。この記事で見え方が少し変わればと思っています。

補足 日本ではケタミンは麻薬に指定されています。施用・保管・記録は法令に従ってください。1バイアルが大きく小分けの処方がしにくいなど、処方まわりの手間を感じる場面があるとすれば、この扱いが背景にあります。


用量――導入・不動化ではしっかり使う薬

教科書に書かれている用量は、次のとおりです。いずれも導入・不動化を目的にしたときの量です。

IV IM
2〜5 mg/kg 5〜10 mg/kg
5〜10 mg/kg 5〜10 mg/kg

補助的な鎮痛として使うときの量はこれよりずっと小さく、目的が変われば用量帯も変わります。以下は導入・不動化の話として読んでください。なお実際には、ケタミンを単独で使うことはほとんどありません。理由は「呼吸と気道」の項で説明します。

そこそこ多い量を使える薬だと分かります。私自身は日本にいたころ0.5 mg/kgや1 mg/kgを IV または IM で投与していて、渡米してから「それは少ない用量だよ」と言われました。個人的な印象としては、低用量の目安がだいたい2 mg/kgくらいという感覚です。

講義でお見せした動画は、犬が2 mg/kg IV、猫が5 mg/kg IVの状態です。あの用量であそこまで体が硬直します。硬直そのものは解離状態の見た目で、麻酔の深さを表しているわけではありませんが、その程度の用量でも作用ははっきり出ると考えてよいと思います。


どこに打っても効く

高用量を使える背景の1つが、どこからでも注射できることです。

さらに、濃い製剤があります。アメリカでは1 mLあたり100 mg入っている液体が一般的で、筋肉内投与のときもボリュームを小さく抑えられます。動物園の動物や野生動物を捕獲する場面では1回の筋注で入れきりたいので、濃い液体が好都合です。ケタミンがいろいろな動物に使われてきた理由の1つです。

もちろん静脈内投与もできます。効力は少し下がるものの、皮下投与・経口投与・直腸内投与も可能とされています。投与ルートがこれだけ多い理由は、後半の体内動態のところで説明します。

半減期はプロポフォールなど他の薬に比べるとそこそこ長く、犬でだいたい1時間、猫ではそれより少し長いとされています。


NMDA受容体と、「解離」という現象

ケタミンはNMDA受容体に非競合的に拮抗する薬です。中枢神経系にあるNMDA受容体が遮断されることで、意識の状態が落ち着き、眠くなる方向に行き、さらに忘却(記憶が残らないこと)も得られます。

ケタミンにはもう1つ、解離性麻酔薬という分類があります。何が解離しているのでしょうか。

ケタミンを効かせた犬や猫は目を大きく開いていて、いかにも起きているように見えます。ところが動物のほうは意識がなくなっていて、眠っているような状態です。

理由は、ケタミンが遮断する場所にあります。痛み・音・光といった刺激は、いったん大脳皮質まで入ってきて知覚されます。ケタミンはそこに分布するNMDA受容体をブロックするため、知覚するということ自体ができなくなります。記憶も基本的には残らない方向に行きます。

一方で、大脳辺縁系や呼吸中枢、目の神経が入ってくる中枢には作用しません。だから呼吸は止まりにくく、目は開いたまま、眼瞼反射も残ります。生きていることを示す反射が残るのです。ただし、残っている反射が体を守ってくれているという意味ではありません(後述)。

起きているように見えるけれど、実際には何も覚えていないし眠っている――この症状の解離が、解離性麻酔薬という名前の由来です。

もう1つの特徴的な症状がカタレプシーで、筋肉がぐっと硬直して姿勢を変えられなくなります。

補足 覚醒するときに興奮したり、不快な反応を示したりすることがあります。静かな環境で覚醒させること、鎮静薬を併用することで減らせます。

補足 眼瞼反射が残るということは、この薬では眼瞼反射が麻酔の深さの手がかりにならないということでもあります。


他の導入薬と真逆――交感神経を刺激する

ケタミンは、中枢神経系を介して交感神経を刺激することが知られています。

これは他の導入薬と真逆なので、特徴として覚えやすいところです。プロポフォール、アルファキサロン、エトミデートはGABA受容体に働く薬で、ケタミンのように交感神経を刺激する方向には行きません。

刺激の経路は2つあります。

  • 交感神経を直接刺激する作用
  • 神経終末でのノルアドレナリン(ノルエピネフリン)の再取り込みを減らし、神経と神経のあいだの興奮性の伝達物質を増やす――これが間接的な刺激になります

交感神経が刺激されるので、脳の代謝と血流が増えます。結果として頭蓋内圧が亢進します。眼内圧も上がるとも言われています。

教科書に「神経症状を持つ動物や、緑内障のように眼内圧が上がっている動物には基本的に使わないように」と書かれているのは、これが理由です。

ただし、ケタミンを使うと発作を起こすような脳波が生じるという報告と、実は脳保護作用があるのではないかという報告の2つがあり、ここはまだ結論が出ていないところです。もしかしたら頭蓋内圧が上がっている外傷や脳腫瘍を持つような動物にも、低用量で、かつ換気をこちらで管理できる状況であれば、おそらく安全に使えるのではないか――と、私は今のところ考えています。人の医療でも議論されている領域です。


循環――血圧は上がる。ただし心筋は抑制されている

心血管系では、交感神経が刺激されることで心拍数が上がり、心拍出量が上がり、血圧が上がるというのが有名な作用です。

ただしマイナスの作用として、心筋を抑制する効果があります。この2つは別のメカニズムで働いています。

交感神経刺激で表に出てくるのは、心拍数の上昇・心拍出量の上昇・血圧の上昇です。その裏では、心筋に対する直接作用として抑制がかかっており、同時に心筋の仕事量と酸素消費量が増えています。表に出る作用と裏の作用は別のメカニズムで、打ち消し合った結果が「血圧は上がる」という見た目になります。

心筋への直接作用は抑制方向ですが、間接的に交感神経を刺激するので、結果として心筋は抑制されていないように見える――そう考えています。

ここから注意点が出てきます。交感神経を使い果たしてしまっているような重症例――敗血症や、血圧が下がって代償のためにカテコラミンを体から放出し続ける状態が長く続いた症例など――では、体の中で使い果たしてしまっているので交感神経刺激が起こりません。すると心筋を直接抑制する作用だけが表に出てしまい、マイナスに働くことがあります。

補足 逆に、交感神経刺激そのものが望ましくない症例にも注意が必要です。心筋症(とくに猫の肥大型心筋症)、コントロールされていない高血圧、心不全、頻脈・不整脈、甲状腺機能亢進症の猫では、心拍数と心筋酸素消費量が上がることが不利に働きます。教科書では高用量の解離性麻酔薬は相対禁忌として扱われています。


呼吸と気道――単独では挿管できない

呼吸器に対しては、自発呼吸が止まりづらく、CO2も溜まりづらい、比較的呼吸抑制が少ない薬とされています。気管支拡張作用もあります。

補足 呼吸は止まりにくいものの、吸気が長く呼気が短い独特のパターン(apneustic breathing)になることが知られています。回数だけを見て「呼吸が変だ」と判断しないでください。

ただし、気道まわりに独特のくせがあります。

  • 喉頭反射がとても消えにくい。反射が残る
  • 流涎が強く出る

補足 反射が残ることと、気道が守られていることは別です。ケタミンで残る喉頭・咽頭反射は保護的ではないとされています。反射があるから挿管しなくてよい、とは読まないでください。

こうしたくせがあるため、ケタミン単体で挿管しようとすると、おそらく口が開かず、流涎もひどく、喉頭反射も残ってしまって、挿管できないことが多くなります。だから、ベンゾジアゼピンやプロポフォールといった筋弛緩の作用がある薬と組み合わせるのが一般的です。

筋肉に関しては、筋緊張とミオクローヌス――体がピンと張って震えるような症状が出ます。見た目はあまりよくありません。


鎮痛――体性痛とワインドアップ

ケタミンには鎮痛作用があります。実はオピオイド受容体にも働くと言われていますが、メインは別の経路です。

痛みの種類で見ると、オピオイドが内臓痛によく効くのに対して、ケタミンは体性痛――筋肉や皮膚といった場所の痛みに良いとされています。

もう1つがワインドアップ現象です。麻酔中、動物は痛みを表現してくれません。けれども鎮痛薬を使っていなければ、末梢から脊髄の中へ痛みの刺激が伝わり続けています。それが原因で術後の痛みが増幅してしまう――これがワインドアップです。ケタミンは、このワインドアップを脊髄レベルで抑制してくれる薬として有名です。

さらに、神経原性の疼痛に効いたり、抗炎症効果もあるのではないかとされています。鎮痛の経路が複数あるぶん、そこそこ良い鎮痛が得られます。とくに慢性疼痛や、オピオイドで抑えられないような疼痛に対してよく効いてくれる薬です。


体内動態と代謝――猫で作用が延びる理由

脂溶性が高く、タンパク結合率が低い

ケタミンの体内動態は、2つの性質でほぼ説明がつきます。

性質 講義での説明 何が起こるか
脂溶性 かなり高い 皮下でも筋肉内でも血液内に吸収される速度が速く、どこに投与しても血中濃度が上がる
アルブミン結合率 低い 遊離した薬が多いぶん組織へ移行しやすく、作用の発現が早く、強い

タンパク結合率を補足します。ケタミンはアルブミンに結合している割合が低く、多くが血液中に単独で遊離しています。この遊離した薬が組織と平衡に達して移動し、作用部位である臓器に分布して効果を発揮します。

つまりケタミンは早く効き、どこに投与しても効く。投与ルートが多い理由はここにあります。

肝臓での2段階の代謝

体内に入ったケタミンは、一部が肝臓に運ばれて代謝を受けます。肝臓での代謝は基本的に2段階に分かれます。

  1. 第1段階――酸化還元反応など、CYP450(肝臓の酵素)による代謝。薬は別の形態に変わりますが、まだ脂溶性のままです。ケタミンの場合、ここでノルケタミンという、ケタミンの20〜30%の活性を持つ代謝物になります
  2. 第2段階――抱合。グルクロン酸抱合が行われると薬が水溶性になり、尿や胆汁など水に溶けやすい形で排泄されます

猫で長引く2つの理由

猫はグルクロン酸抱合の能力が弱い動物です。ノルケタミンを水溶性にできないまま排泄しなければならず、活性を持った代謝物が体の中をずっと循環することになります。猫でケタミンの作用が長くなるのは、これが理由です。

もう1つ、ノルケタミンは尿中にも排泄されることが知られています。慢性腎臓病(CKD)を持つ猫はGFRが低くなるので、ノルケタミンが体に蓄積しやすくなり、作用が延長する原因になると言われています。腎臓病を持つ猫でとくに注意しましょうと言われるのは、そのためです。


製剤

日本にある製剤は、1 mLの中に10 mg入っているものや50 mg入っているものが一般的です。アメリカでは100 mg入っているものが一般的です。

pHは少し酸性寄りで、保存剤が入っているので、冷蔵庫で保存する必要はありません。


まとめ

  • ケタミンは導入・不動化・鎮痛のどれにも登場する多用途の薬。教科書の用量は犬2〜5 mg/kg IV/5〜10 mg/kg IM、猫5〜10 mg/kg IVまたはIM
  • どこに打っても効く。IV・IMのほか、効力は下がるが皮下・経口・直腸内も可能
  • 大脳皮質のNMDA受容体を遮断する一方、呼吸中枢や目の中枢には作用しません。だから起きているように見えるのに意識はない――これが解離性麻酔薬の由来。眼瞼反射も残る
  • 他の導入薬と違い交感神経を刺激する。血圧は上がる。頭蓋内圧・眼内圧も上がるとされるが、条件つきで議論が続いている
  • 血圧上昇の裏で心筋は直接抑制されている。交感神経を使い果たした重症例では、抑制だけが表に出ることがある
  • 呼吸抑制は少ないものの、喉頭反射が残り流涎が強いので、単独では挿管できないことが多くなります。筋弛緩作用のある薬と組み合わせます。残る反射は気道を守ってくれるものではない
  • 鎮痛は体性痛とワインドアップの抑制が中心。慢性疼痛やオピオイドで抑えきれない痛みに使える
  • 猫ではグルクロン酸抱合が弱いうえ、ノルケタミンが尿中に排泄されるため作用が延びます。腎臓病を持つ猫はとくに注意

この記事の元になった講義

VT薬理学セミナー 第4回「ケタミン:起きて見えるのに眠る薬」(20分53秒)
https://youtu.be/-2g1LQHIvQM

講師:風間 匠(DVM, MS, DACVAA/米国獣医麻酔疼痛管理専門医)

※本記事は2023年12月に収録した講義をもとに構成しています。薬の効き方や量の考え方は変わりませんが、製剤の入手性や法令上の扱いは収録後に変わっているものがあります。日本ではケタミンは麻薬に指定されています。実際の使用にあたっては、手元の添付文書と法令の定めを確認してください。


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