アルファキサロンとプロポフォールの実用差|筋肉に打てる導入薬
アルファキサロンは「プロポフォールに似た薬」と説明されがちですが、実用上の違いは2つに絞れます。筋肉に打てること(国内では適応外使用)と、蓄積しにくいことです。この記事では、その2つが臨床のどこで効いてくるのかを見ていきます。猫での筋注鎮静、効き始めまでの待ち時間、製剤の姿まで。動物看護師の方に向けて書いています。読み終えるころには、プロポフォールとどちらを選ぶかの基準ができます。
プロポフォールとよく似た薬
薬の作用としては、基本的にプロポフォールと同じです。違うのは用量で、少なめ。静脈内投与は犬 2〜3 mg/kg、猫 5 mg/kgが国内の承認用法で、教科書もほぼ同じ範囲を示しています。前投薬が効いていれば下限側、無前投薬なら上限側です。
教科書では、プロポフォールより低血圧がマイルドではないか、帝王切開で子犬の状態が良いのではないか、とも言われています。ただ数字を見ると、犬の帝王切開でアルファキサロン群は子犬の活力スコアがプロポフォール群より高かったものの、24時間生存率は同等(97% vs 98%)でした。血圧も、私はそこまで変わらないんじゃないかと思っています。生存率という点ではプロポフォールでも結果は良いので、どちらでもいいかなという感じです。
補足 最も多い副作用は無呼吸です。そして速く入れるほど起きやすい――前投薬した犬では 0.5 mg/kg/分 で入れたほうが 2 mg/kg/分 より導入後の無呼吸が少なかったと報告されています。国内の用法も「60秒以上かけて、1/4量ずつ15秒ごと、喉頭反射を見ながら」。決めた量を押し切る薬ではなく、挿管できる深さになった時点で止める薬です。酸素と気道確保の道具(気管チューブ・喉頭鏡・バッグ)を手元に置いてから使ってください。
筋注という使い道
臨床で使いやすい投与ルートの一つが、筋肉内投与(筋注、IM)です。特に猫。だいたい1〜3 mg/kgを、α2作動薬やオピオイドなど他の鎮静薬と組み合わせて筋注すると、互いの効果を高めあって、結構いい鎮静がかかることが多いです。
この1〜3mg/kgという数字は、そもそも併用を前提にした数字です。教科書は「単独の筋注、とくに5mg/kgのような高用量は回復の質が悪いので勧めない」「1〜3mg/kgの低用量を他の鎮静薬と併用すればこの問題は大きく改善する」という書き方をしています。アルファキサロンだけを筋注する薬ではなく、組み合わせの一員として使う薬だと考えてください。
| 投与経路 | 効き始め | 効いている時間 |
|---|---|---|
| 静脈内(IV) | 速い(ただし60秒以上かけて分割投与する) | 効力はすぐ消えてしまう |
| 筋肉内(IM) | 15〜20分は待つ(私の印象) | だいたい40分は横になる |
筋注は打った直後には効きません。待たずに始めると鎮静は浅いままです。
警告 筋注でも呼吸は同じように抑制されます。アルファキサロンは筋注でもほぼ全量が体に入り(猫 5 mg/kg IM でバイオアベイラビリティ約95%)、他の鎮静薬と併用すると喉頭反射が消えることがあります。「鎮静だから」ではなく、IV導入と同じ備え――酸素、パルスオキシメータ、気管チューブと喉頭鏡――を用意してから打ってください。犬でα2作動薬+オピオイドに低用量アルファキサロンを足したときは、全頭が SpO2 94%以下になったという報告があります。
補足 国内で承認されている効能は吸入麻酔薬による全身麻酔時の麻酔導入で、用法は静脈内投与のみです。この記事で扱う筋肉内投与も、後に出てくるTIVA(持続投与での維持)も、いずれも適応外使用にあたります(動画の画面にも同じ補足を入れています)。
蓄積しにくさ
脂溶性は比較的高いとされています。半減期(血中濃度が半分になるまでの時間)は、だいたい犬で30分弱、猫で45分ぐらいです。半減期であって「薬が体から消える時間」ではないので、そこは差し引いて見てください。犬では投与量が増えるほど半減期も延びます(2mg/kgで約24分、10mg/kgで約37分)。
そして、プロポフォールが蓄積しやすいグレーハウンドや猫でも、アルファキサロンは蓄積性が低く作用が延長しづらいとされています。猫のTIVA(全静脈麻酔)も検討していい薬かな、という感じです。
グレーハウンドには但し書きが要ります。無前投薬のグレーハウンドは薬物動態がビーグルとほぼ同じという報告がある一方、アセプロマジン+モルヒネで前投薬したグレーハウンドでは麻酔時間が前投薬なしの犬の最大5倍まで延びた報告があります(Pasloske 2009)。バルビツレートやプロポフォールよりは扱いやすいものの、「グレーハウンドなら延びない」とは決めてかからないでください。前投薬の中身で変わる、というのが実務的な線引きです。
猫のTIVAにも一つ。「蓄積しにくい=いくら流しても覚醒が変わらない」ではありません。アルファキサロンは覚醒までに血中濃度を85〜95%落とす必要があり、この水準では流していた時間が覚醒時間に効いてきます。長く流した日は覚醒も長めに見積もってください。
製品の姿
一般的には1 mLあたり10 mg入っています。この濃度だと、筋注で注射液量が多めになってしまいます。そこが少し使いづらい特徴かなと私は考えています。
もともと脂溶性の薬ですが、環状の糖(シクロデキストリン)の中に挿入して水溶性の液体にしてあります。プロポフォールと違って液は透明です。
保存は製品によって扱いが違うので、必ず手元のバイアルで確認してください。保存剤(防腐剤)入りのマルチドーズ製剤は室温保存で開封後の使用期間が長くとられています(国内のアルファキサン マルチドーズは室温20〜25℃で開封後56日の安定性が確認されています)。一方保存剤の入っていない製剤は抗菌性がなく、黄色ブドウ球菌や大腸菌の増殖を許します。表示上の期限も国ごとに違い、英国は単回使用、米国は開封後6時間で廃棄、豪州は4℃で7日間です。「アルファキサロンだから冷蔵不要」ではなく「この製品だから」で判断してください。無菌操作をプロポフォール並みに厳しくやるのは、どちらの製剤でも同じです。
使う前に押さえる2つ
鎮痛作用はありません。 プロポフォールと同じで、眠りと筋弛緩は得られますが痛みは取れません。筋注でぐったりしている猫が「痛くない」わけではないので、痛みを伴う処置なら鎮痛薬を別に足してください。
覚醒時に動くことがあります。 paddling(足をかく)、体のこわばり、ミオクローヌス、鳴く、音や光への過敏、ふらつき――いずれも報告があります。多くは2分以内に収まって治療は要りませんが、静かで暗い場所で覚醒させるとだいぶ違います。とくに筋注で使ったときに出やすい印象があるので、打つ前に回復場所を確保しておいてください。
まとめ
- 作用はプロポフォールとほぼ同じ。鎮痛はない。IVは犬2〜3 mg/kg・猫5 mg/kg、60秒以上かけて分割投与
- 実用上の違いは筋注できることと蓄積しにくいこと
- 筋注は猫で使いやすいが、他の鎮静薬との併用が前提。15〜20分待たないと効かない。国内では適応外(TIVAも同じく適応外)
- 最も多い副作用は無呼吸。速く入れるほど起きやすい。筋注でも酸素と気道確保の準備をしてから使う
- 覚醒時に paddling や過敏が出ることがあります。静かな場所で覚醒させます
- 保存条件は製剤で違う。保存剤なしの製剤は細菌が増える
この記事の元になった講義
VT薬理学セミナー 第5回「アルファキサロン:筋注できる導入薬」(4分32秒)
https://youtu.be/1aD4czO5tdM
講師:風間 匠(DVM, MS, DACVAA/米国獣医麻酔疼痛管理専門医)
※本記事は2023年12月に収録した講義をもとに構成しています。薬の効き方や量の考え方は変わりませんが、製剤の入手性や法令上の扱いは収録後に変わっているものがあります。
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