α2作動薬をフェーズ1とフェーズ2で読む|深い鎮静には、代償がついてくる
メデトミジンを打ったあと、心拍数が落ちて粘膜の色がくすむ(灰色〜青みがかる) ―― あれは失敗ではなく、この薬の設計どおりに起きていることです。この記事では、循環がフェーズ1とフェーズ2でどう変わるのか、アトロピンを併用してよいのかという議論をフェーズと実測血圧でどう整理するか、そして拮抗薬アチパメゾールの使い方までを整理します。動物看護師の方に向けて書いています。読み終えるころには、モニターの変化を見て「いま何が起きているか」が言えるようになります。
鎮静薬のなかでの、α2作動薬の位置
α2アドレナリン受容体作動薬(以下、α2作動薬)は、アセプロマジンやベンゾジアゼピンとは違って、ものすごくクオリティの高い鎮静が期待できる薬です。私が最も好きな鎮静薬のひとつです。
そのうえ、いろいろな鎮痛作用を持ち合わせています。裏を返せば、作用と副作用をしっかり押さえておけば安全に使えるけれども、押さえていなければ危ない薬でもある、ということです。この回では、その作用と副作用を順に見ていきます。
どの薬を使うか――犬猫と大型動物
α2作動薬は1種類ではありません。犬猫でよく使うのはメデトミジンとデクスメデトミジン。馬や反芻類などの大型動物では、キシラジン・デトミジン・ロミフェジンといった薬を使います。何が違うかというと、まず作用時間が全然違います。
| 薬 | 主に使う動物 | 作用時間 |
|---|---|---|
| メデトミジン/デクスメデトミジン | 犬猫 | 短い(臨床的な鎮静は30分前後) |
| キシラジン | 馬・反芻類など | 短い(上と同じグループ) |
| デトミジン | 馬・反芻類など | 長め |
| ロミフェジン | 馬・反芻類など | いちばん長い |
※ここでの長短はグループとしての大まかな目安です。厳密な順序は動物種と用量で変わります。
もうひとつは力価、つまり使う用量が違うことです。仮に全部を同じ1 mg/kgで使ったとしたら、得られる鎮静や鎮痛の強さは薬ごとにバラバラになります。だから薬に応じた用量を使い分ける必要があります。鎮静の質など、細かいところも少しずつ違います。この記事では、犬猫で使うメデトミジンとデクスメデトミジンに絞って進めます。
拮抗薬があるという強み
α2作動薬のとてもいい特徴のひとつが、拮抗薬があることです。ここがアセプロマジンなどとの使い分けのポイントになります。臨床的によく使うのはアチパメゾールで、α2受容体にくっつくことで、先に受容体についているα2作動薬を引き剥がしていく、というイメージの薬です。
最近アメリカをはじめ世界的に注目されているのが、バチノキサンというα2受容体拮抗薬です。この2つの違いは、薬が脳へ移行するかどうかを決める血液脳関門を越えるかどうかにあります。
アチパメゾールは基本的にこれを越えて脳まで働くので、鎮静作用も、脳で生まれている鎮痛作用も消えてしまいます。これに対してバチノキサンは末梢にとどまる薬として開発されました。末梢のα2作動性の作用だけが消えるので、鎮静と鎮痛が残ったまま、末梢の血管が締まることで起きる変化――最初は高血圧、そこから低血圧になっていく心血管系への影響――を和らげられます。
ただし、「心血管系への影響が無くなる」わけではありません。徐脈は軽くなりますが、そのぶん血管が開くので、吸入麻酔薬と組み合わせると低血圧が出やすくなるというトレードオフが報告されています(去勢手術の犬で、併用した群は14頭中8頭が低血圧への介入を必要とした、という報告があります)。
アメリカで手に入るのは Zenalpha という、メデトミジンとバチノキサンをあらかじめ混ぜた配合剤(犬用、2022年FDA承認)です。自分で混ぜて使う薬ではありません。ラベル上は、心疾患・呼吸器疾患・ショック・低血糖・極端なストレス下では禁忌とされています。
α2受容体はどこにあり、何を起こすか
そもそもα2受容体があるのは交感神経で、しかもシナプス前膜と後膜の両方にあります。交感神経は、中枢神経(脳から脊髄)を出たあと胸椎に分布し、胸椎の腹側を走る交感神経幹で一度シナプスを換えて、そこから末梢へ分岐していきます。ですからα2受容体は、大きく中枢神経系のα2受容体と末梢神経系のα2受容体に分けて考えることができます。
作用は本当にたくさんありますが、押さえてほしいのは次の4つです。
| 特に重要な作用 | どこで起きるか |
|---|---|
| 鎮静 | 中枢 |
| 心血管系への作用(心臓と血管) | 中枢と末梢の両方 |
| 呼吸器への作用 | 中枢 |
| 鎮痛 | 中枢(下行性の経路) |
そのほかにも、次のような作用があります。
- CRIをすると尿量がすごく増える。やたらおしっこが出るな、と感じることがある
- 消化管の運動が低下する。オピオイドと同じように、ご飯を食べにくくなることがある
- 子宮筋などの平滑筋が収縮する。添付文書は、妊娠している動物への安全性が確立していないとして、使用を避けることとしています(ほかにも理由はあります)
- CRIを流していると血糖値が上がってくることがある
- 嘔吐する。これは頻度が高く、猫で最大90%、犬で最大30%と報告されています。投与後は誤嚥しない体位を取り、吐いてもいい準備をしてから離れないこと。添付文書は投与前12時間の絶食を推奨しています
- 体温が下がる。鎮静中の保温は必須です
心血管系――フェーズ1とフェーズ2
いちばん大事なところなので、順に見ます。メデトミジンをIVまたはIM投与すると、まず血圧がギュッと上がり、そのあと時間とともに少しずつ落ちていきます。一方で心拍数は最初からギュッと落ちて、そのまま徐脈の状態が続きます。
この動きは、フェーズ1とフェーズ2に分けて考えると理解しやすくなります。
| フェーズ1 | フェーズ2 | |
|---|---|---|
| 血圧 | 上がる(高血圧) | 下がっていく(低血圧〜通常の血圧) |
| 心拍数 | 落ちる(徐脈) | 低いまま(徐脈が続く) |
| 何が起きているか | 薬が血管に入り、末梢血管のα2受容体が作動して血管収縮。締まったことに対し圧受容器反射が働き、心拍数を落とす | 薬が組織へ移行し、中枢のα2受容体が作動。交感神経が抑制されて血管が拡張し、血圧が下がる |
| 鎮静・鎮痛は | まだ組織へ移行しておらず、出ていない | 出ている |
同じ徐脈でも、理由は違います。フェーズ1は圧受容器反射、フェーズ2は交感神経が抑制されて心拍数が上がりづらくなっている状態です。
そしてフェーズ1・フェーズ2に共通して押さえてほしいのが、心拍出量が落ちていることです。心拍出量は50%以上下がりうると報告されています。フェーズ1で血圧が高く見えても、それは血管が締まっているからで、送り出している血液の量はむしろ減っています。フェーズ2で血圧が正常値に戻っても、心拍出量が戻ったわけではありません。「血圧が正常=大丈夫」ではない、というのがこの薬でいちばん誤解されるところです。
臨床では、フェーズ1のあいだに薬を打ち、フェーズ2に入ってから留置を取ったり麻酔をかけたりしていることが多いです。つまり麻酔がかかっている時間帯は、フェーズ2にいることが多い。「メデトミジンを使って血管が締まっているはずなのに、なんだか低血圧だな」という麻酔症例は、きっとフェーズ2にいるから、と考えられます。
アトロピンを使ってよいのは、どちらのフェーズか
よくある議論に、「メデトミジンを使った症例にアトロピンを使っていいの?」というものがあります。これも、フェーズ1とフェーズ2で考えるとわかりやすいと思います。
フェーズ1でアトロピンを使うと、 そもそも血管が収縮していて、体が頑張って心拍数を下げようとしているところに、逆のことをすることになります。心拍数が上がれば血圧はさらにギュッと上がりますし、血液を送り出しづらくなっている心臓の心拍数を上げるので、心臓の酸素消費量が増えてしまいます。ですからフェーズ1では、あまり好ましくありません。
フェーズ2では、 そもそも心拍数も下がっていて、血圧もどんどん下がってきている状態です。ここでアトロピンを使うことは、低血圧を緩和するよい方法になると考えていいと思います。
麻酔科領域では「フェーズ1ではアトロピンは好ましくない、フェーズ2では低血圧の緩和になりうる」という考え方が広く共有されています。ただしこれは一枚岩の合意ではありません。教科書によっては「議論があり、意見が分かれる」と明記されています。
判断の順序はこうです。①血圧を実測する(投与からの経過時間ではなく、いま高血圧なのか低血圧なのかで決まります)、②その徐脈がα2作動薬によるものか、ほかの原因がないかを考える、③そのうえでアトロピンを検討します。
重要 国内の添付文書(ドミトール/デクスドミトール)は、「アトロピン等の抗コリン薬と併用すると一時的な血圧の過剰な上昇と心臓への大きな負荷が認められるので、併用は避けること」としており、フェーズによる区別を設けていません。フェーズ2でのアトロピン投与は添付文書の記載を外れる判断です。実施する場合は血圧を測りながら、担当獣医師の責任のもとで行うものであって、看護師が独断で準備・投与する場面ではありません。
補足 第1回で扱ったとおり、麻酔中に血圧が下がったときの初手は昇圧薬ではありません。麻酔を浅くする・原因を探す・輸液が先です。α2作動薬を使っているときのアトロピンも、その流れのなかにある選択肢のひとつだと考えてください。
呼吸への影響と、併用したときに起きること
α2作動薬は、呼吸器系への影響は基本的には少ない薬だと言われています。
ただし、オピオイドやミダゾラムと一緒にIM投与すると、低換気になる症例はけっこう多いです。さらに、ガス麻酔薬やプロポフォールと併用すると、無呼吸になる症例もけっこう多いです。
つまり「α2作動薬は呼吸に優しい」は単剤での話で、呼吸抑制を持つほかの薬と併用すれば、低換気や呼吸抑制はむしろ増強されるということです。併用したときこそ、呼吸のモニタリングを緩めないでください。デクスメデトミジンとメサドンをIMで併用した研究では、全頭でSpO2が94%以下まで下がっています。併用するときは、酸素とパルスオキシメータ(またはカプノグラフ)を準備してから打つ、と考えておくと安全です。
もうひとつ、モニタリングで引っかかりやすいのが粘膜の色です。末梢の血管が締まると、粘膜が「泥っぽい」灰色から青みがかった色になります。これは血流がゆっくりになったせいで、動脈血の酸素はたいてい正常です。色だけを見て低酸素と判断しないこと。同じ理由で、パルスオキシメータや非観血血圧計は値を拾いづらくなります。
心電図では第一度・第二度の房室ブロックがよく出ます。α2作動薬では想定内の所見です。ただし第三度房室ブロックや洞停止も、まれながら起こりえます。波形は見続けてください。
鎮静と鎮痛は、どこで生まれているか
教科書には、ノルアドレナリンを介した脳内の交感神経系の動きを示した図が載っています。細かいところを覚える必要はまったくありません。押さえておきたいのは1か所、交感神経系のもとになる青斑核です。
補足 青斑核(locus coeruleus)は、解剖学的には脳幹の橋にあります。講義では「延髄の青斑核」と説明していますが、正しくは橋です。また講義では、痛みを抑える経路を「末梢へ行くルート」と説明していますが、正しくは脊髄へ下りていくルート(下行性抑制)です。
青斑核から出る交感神経系には、大きく2つのルートがあります。
- 脳内に広がっていくルート ―― 脳を活性化します。交感神経系が活性化すると体が活発になるイメージがありますが、それが脳のなかでも起きている、ということです
- 脊髄へ下りていくルート ―― 痛みの伝わりを抑える「下行性抑制」の経路です。行き先は末梢の神経ではなく、脊髄の後角です
α2作動薬は交感神経系を抑制します。1つ目のルートでは脳内の働きが弱まって鎮静作用が生まれます。鎮痛のほうは、脊髄後角のα2受容体に作用して痛みの伝わりを直接抑えることが主で、青斑核から下りてくる下行性抑制もこれに関わっています。
MAC減少効果
α2作動薬にMAC減少効果があることもよく知られていて、どのくらい下げるのかを調べた論文もあります。細かい数値は置いておくとして、結構下げます。イメージとしては、フェンタニルやモルヒネといったオピオイドと同じレベル、と考えるとわかりやすいと思います。「メデトミジンを使った症例ではイソフルランやセボフルランの濃度を低く保てた」という印象は、ここから来ています。
体の中での動き――効き始めと、切れるまで
薬物動態は素直です。血液から末梢の組織へ移行して作用を発揮し、また血液に戻って肝臓で代謝を受けます。代謝産物は活性を失っていて、腎臓から排泄されます。
血液中のタンパク結合率は高く、9割を超えると言われています(この9割超という数値は、人のデクスメデトミジンで報告されているものです)。ですから低タンパク血症のときは、遊離している薬の割合が増えます。遊離した薬は組織へ移行しやすいので、作用が発現しやすくなったり、効果が伸びやすくなったりする点に注意が必要です。
効き始めが早いのも、メデトミジン・デクスメデトミジンの特徴です。
| 投与経路 | 効き始めるまで |
|---|---|
| IV | 約5分 |
| IM | 10〜15分 |
ですから鎮静の効果が欲しいときは、私はIM後になるべく15分くらい待ってから、留置や検査を始めるようにしています。半減期も結構短く、臨床的にしっかり効いているのが30分前後、だいたい1時間もすると作用が切れてきたなという印象が得られる薬だと思っています。
ただし、これは犬の話です。猫では、麻酔下で測ると半減期が3時間を超えたという報告もあります。猫は切れるのが遅い、と思っておいてください。
臨床での使いどころと、使いづらさ
私が主に使うのは、鎮静作用・鎮痛作用・筋弛緩作用の3つの目的です。これらは基本的に、アセプロマジンやミダゾラムより強く出ます。ですから主に鎮静と鎮痛を意識した前投薬として使います。暴れている動物や、不安が強い動物に対して使うと、ものすごく効果を発揮する薬です。加えて、何かあっても拮抗できるという安心感があります。
使いづらいところ
- 鎮静中に音や光で刺激してしまうと、割と起きてきてしまうことがある
- 興奮・恐怖・痛み・ストレスが強い動物では、血中のカテコラミンが高いために鎮静がかからない、あるいは逆説的に興奮することがある。「暴れている子によく効く」薬ですが、効かない典型的な場面もまさにここです。効かなかったときにα2作動薬を足すのではなく、環境を静かにする、ほかのクラスの薬を足す、という方向で考えてください
- 心血管系をはじめ、全身の臓器への影響が出てしまう
使ってはいけない・避けるべき動物
ここは「使いづらい」ではなく「使わない」の話です。
- 心疾患 国内の添付文書(デクスドミトール)は「循環器系の疾患のある動物には投与しないこと」と明記しています。とくに心臓の収縮力が落ちている場合、僧帽弁閉鎖不全症(血管抵抗の上昇と徐脈が逆流を増やします)、左右シャント(シャントが逆転するリスク)
- 徐脈性の不整脈(洞不全症候群、房室ブロック) もともとの徐脈をさらに悪化させます
- 脱水・循環血液量の減少・ショック・重度の全身状態不良
- 猫の尿道閉塞、尿腹(uroabdomen) 尿量を増やす作用が、詰まったままの状態をさらに悪化させます。加えて徐脈と心拍出量の低下が、高カリウム血症の心臓への毒性を強めます。閉塞を解除して尿が出るようになるまでは使いません
- 妊娠している動物 添付文書は安全性が確立していないとして、使用を避けることとしています
使える場面
- 鎮静が必要な、危ない動物への鎮静
- エコーやレントゲンなど、短時間の鎮静が必要な検査
- 手術の前の留置設置
- CRI(後述)
なお、どの薬にも言えることですが、ミダゾラム、アセプロマジン、オピオイドなどと併用すると鎮静作用が増します。鎮静をメインの目的にしたいときは、これらと一緒に使ってあげるといい、というのは一般的に言えます。
実際の用量――犬・猫・投与経路
ここからは、私はこう使っている、というメデトミジンの個人的な使い方。基本的にはミダゾラムやブトルファノール、モルヒネなどと混ぜて使うことが多く、これは鎮静作用を増すためです。犬にIM投与するときの目安がこちらです。
| ねらい | 犬・IM |
|---|---|
| 留置だけ取りたい | 5 μg/kg くらい |
| しっかり動かない状態をつくりたい | 10 μg/kg くらい |
| すごく暴れる、噛んでくる、あまり触りたくない | 20 μg/kg くらい |
だいたい40 μg/kgくらいが天井効果、つまり作用が最も強くなる点だと言われています。これ以上も使えるのですが、効きが強くなるというよりは、どんどん作用時間が伸びていくという感じになります。
投与経路と動物種で変わる分は、私の印象では次のとおり。
- IVに変えるときは、IMの用量をだいたい半分にすると同じくらいの効果が出ます。ただしIVは必ずゆっくり入れてください。速く入れるほど、先ほど説明したフェーズ1の血圧上昇と徐脈が強く出ます
- 猫は、犬のだいたい倍くらいで同じような効果が出ます。なので猫では、結構高い用量から使い始めることも多いです
これらは単剤で決まる数字ではありません。併用薬で鎮静は増しますし、年齢や全身状態でも変わります。なお、添付文書の猫の用量はこれよりずっと高く(メデトミジンで50〜150 μg/kg程度)設定されています。ここに書いた数字はミダゾラムやオピオイドと混ぜる前提の、私の個人的な使い方です。単剤ではこの量では効きません。
製剤の濃度差と、拮抗薬の使い方
用量の次は製剤の濃度です。ここを間違えると桁が変わります。メデトミジンは1 mg/mLの製品が多いと思います。動物用にすごく薄く作られている薬です。
デクスメデトミジンとは何か。メデトミジンには光学異性体を含めて2つの物質――レボメデトミジンとデクスメデトミジン――が入っており、このうち効果がある部分だけを取り出したのがデクスメデトミジンです。ですから理論的にはメデトミジンの半分の用量で同じだけの効果が出るのではないか、というコンセプトのもとに作られた薬になります。日本で発売されているデクスドミトールは、100 μg/mLと500 μg/mLという2つの濃度で売り出されています。
補足 メデトミジン・デクスメデトミジンの製剤濃度は製品によって異なります。投与量を計算する前に、手元の添付文書で必ず確認してください。また、国内のデクスドミトールは犬では体重ではなく体表面積あたりで用量が決められています。小さい犬ほど、体重あたりに直したときの量は多くなります。
拮抗薬アチパメゾールの使い方
一般的な投与方法は、投与したα2作動薬の量に決まった倍率をかけて、それをIMで投与するというものです。この倍率は、犬と猫で違います。
| メデトミジンを拮抗 | デクスメデトミジンを拮抗 | |
|---|---|---|
| 犬 | 投与量の4〜6倍量 | 投与量の10倍量 |
| 猫 | 投与量の2〜4倍量 | 投与量の5倍量 |
(アンチセダンの添付文書の記載です。よく言われる犬の「5倍」は、この4〜6倍の真ん中にあたります)
猫に犬の倍率をそのまま当てはめると、添付文書の倍の量を打つことになります。計算を始める前に、まず動物種を確認してください。
補足 この倍率が成り立つのは、アチパメゾールが5 mg/mL、メデトミジンが1 mg/mL、デクスメデトミジンが0.5 mg/mLという、おなじみの組み合わせのときです。手元の製剤の濃度が違えば倍率も変わります。計算の前に必ずラベルを見てください。
IVで投与する方もいらっしゃいますが、基本的にIV投与は推奨されていません。急に血管が開いて、重い低血圧を起こします(猫の実験では、心拍数も心拍出量も良くならないまま、血圧だけがひどく下がりました)。鎮静作用が急にブロックされて、突然興奮し始める動物もいます。野生動物では、拮抗した直後の循環虚脱による突然死も報告されています。個人的にも、必要があれば筋注で拮抗するのが一番いいと思っています。
IV投与が正当化される場面は、CPRの状況です。α2作動薬を使っている動物が心肺停止になってしまったときは、IVで拮抗してあげるのがいいと思います。
変わった投与方法――鼻腔内投与とCRI
面白い投与方法を2つ紹介します。
鼻腔内投与
ミダゾラムの噴霧器が有名だと思いますが、それと同じような噴霧器で鼻腔内に投与する方法があります。健常な犬に低用量(5 μg/kg程度)で行った研究では、IMと同じ用量で同等の鎮静が得られたと報告されています。オンセットも結構早いので、使いどころによっては使いやすい方法です。ただ私は「IMしてしまえばいいのでは」と思うので、そこは別にどちらでもいいと思っています。
CRI(この節の数値は、すべてメデトミジンとしての量です。デクスメデトミジンを使う場合は半量が目安)
メデトミジンとして、だいたい1 μg/kg/時くらいの低用量は、全身麻酔下で心血管系への影響――血管収縮や血管拡張――が出づらい用量だと言われています。この用量なら良いMAC減少効果と鎮痛効果が出て、血管収縮も最小限に抑えられるので、高血圧にも低血圧にもなりづらくなります。ただし心拍数は下がってきます。血圧や末梢の循環に影響が出ているようなら、前の章の①②③の順で考えてください。個人的には、オピオイドのCRIと同じような感じで使える可能性があると思っています。
用量を上げてメデトミジンとして2 μg/kg/時、3 μg/kg/時とすることも全然できますが、そうすると血管収縮作用が目立ってきて、高血圧と徐脈が出やすくなってきます。
使う場面は、たとえばモルヒネしかない病院で、モルヒネ以外にもう一段、鎮痛を足したいとき。あるいはフェンタニルなどのCRIをすでに高い用量で使っていて、そこにもう何か足してあげたいときです。
麻酔下でなくても使うことがあります。入院している子で少し不安が強い、鎮静も少し欲しい、というときです。個人的なおすすめはメデトミジンとして0.2〜0.5 μg/kg/時で、これでも結構いい鎮静がかかります。そこから動物の状態に応じて調整してください。最初にIVでローディングを入れる方法もありますが、入れるなら必ずゆっくりです。速く入れるほど、フェーズ1の高血圧と徐脈がはっきり出ます。むしろ入れずにこの用量でCRIを流し始めて少し待つほうが、循環は穏やかです。
補足 この0.2〜0.5という数値は、講義のなかで単位が発話されていません。直前のCRIの話(1 μg/kg/時)と同じ単位、すなわちメデトミジンとしての μg/kg/時 と読みました。教科書に載っている覚醒下のデクスメデトミジンCRIが 0.1〜2.0 μg/kg/時 の範囲であることとも整合します。それでも、実施の前には必ず担当獣医師に確認してください。
まとめ
- α2作動薬は質の違う深い鎮静が得られます。鎮痛と筋弛緩も伴い、拮抗薬がある
- 心血管系は2段階で動く。フェーズ1=血管収縮による高血圧+圧受容器反射の徐脈、フェーズ2=交感神経抑制による血圧低下+徐脈の継続。どちらのフェーズでも心拍出量は落ちているので、「血圧が正常=大丈夫」ではない
- アトロピンはフェーズ1では好ましくなく、フェーズ2では低血圧の緩和になりうる。ただし判断のよりどころは経過時間ではなく実測の血圧。国内の添付文書は抗コリン薬との併用を避けることとしており、フェーズ2での投与は添付文書を外れる、獣医師の判断
- 嘔吐が多い(猫で最大90%、犬で最大30%)。誤嚥への備えと絶食の指示は看護師の仕事。心疾患・徐脈性不整脈・脱水やショック・猫の尿道閉塞・妊娠動物では使わない
- 呼吸への影響は単剤では少ないと言われるが、オピオイドやガス麻酔薬などとの併用で低換気・無呼吸が起きやすい
- 鎮静も鎮痛も青斑核を介した作用。MAC減少効果はオピオイドと同レベルのイメージ
- 効き始めはIVで約5分、IMで10〜15分。IM後は15分ほど待ってから処置に入ります。猫は犬より切れるのが遅い
- 犬IMはメデトミジンとして5・10・20 μg/kgが使い分けの目安、天井効果は約40 μg/kgと言われます。IVは半分(ただしゆっくり)、猫は倍が私の印象
- 製剤濃度は製品ごとに違う。アチパメゾールは犬でメデトミジンの5倍量、デクスメデトミジンの10倍量をIM。猫は倍率が違います(本文の表を参照)。IVはCPR以外では推奨されない
- CRIの数値はすべてメデトミジンとしての量。デクスメデトミジンなら半量が目安
この記事の元になった講義
VT薬理学セミナー 第7回「α2作動薬:深い鎮静とその代償」(27分46秒)
https://youtu.be/G7DJcnGFAdw
講師:風間 匠(DVM, MS, DACVAA/米国獣医麻酔疼痛管理専門医)
※本記事は2023年12月に収録した講義をもとに構成しています。薬の効き方や量の考え方は変わりませんが、製剤の入手性や法令上の扱いは収録後に変わっているものがあります。
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