プロポフォールの効き方と注意点|脳を休める薬、痛みは取らない
プロポフォールを打つと動物は眠ります。でも、痛みは取れていません。この記事はその区別から始めて、犬猫の導入用量、低血圧と無呼吸への備え、そして「なぜ覚めるのか」の答えが、単回なら代謝ではなく再分布であることまでを順に追います。猫で持続投与を避ける2つの理由と、国内2製品の違いも入れました。動物看護師の方に向けて書いています。読み終えるころには、打ったあとに何を見るかがはっきりします。
プロポフォールは何をする薬か
プロポフォールは基本的に導入で使われる薬です。投与ルートは静脈内(IV)のみ。単回投与での作用時間は、覚めてくるまでおよそ2〜8分(条件に左右されます)。
持続静脈内投与(CRI)で維持麻酔に使うこともでき、およそ0.2〜0.6 mg/kg/分です。猫でも一応できますが、ある理由から使いづらいと言われています(後半で扱います)。
用量は「前投薬なし」の数字
| 導入用量 | |
|---|---|
| 犬 | 3〜8 mg/kg |
| 猫 | 5〜8 mg/kg(下限が犬より高く、少なめの量では入りきらないことが多いとされます) |
これは前投薬なし・鎮静が何もかかっていない動物に使うときの数字です。すでに鎮静がかかっている動物では半分くらい、あるいはもっと少なく、状態の悪い動物ではさらに少ない用量で導入できます。表の数字は必要な量ではなく、何も打っていないときの出発点です。
実際には、この表の数字を一度に押し込むのではなく、総量の1/4ずつを、全体で60〜90秒かけて、意識と顎の力の抜け方を見ながら足していきます。必要量には個体差が大きく、教科書によっても幅があります(『Veterinary Anesthesia and Analgesia』第6版には、前投薬ありなら3 mg/kg、なしなら最大10 mg/kg という記載があります)。表の数字は「ここから始めて、効果で決める」ための出発点として使ってください。
なお、心拍出量が極端に落ちている動物では効き始めが遅れます。「効かない」と思って追加すると、あとからまとめて効いて深くなりすぎるので、状態の悪い症例ほどゆっくり、待ちながら入れてください。
何に効いているのか――GABA受容体
中枢神経のGABA受容体に働いて、脳の活動を少しゆっくりにしていく薬です。その結果、次の使い方ができます。
- 導入して全身麻酔をかける
- 静脈内に点滴で入れ、短時間から長時間の鎮静(刺激で覚醒しうる、状態としての鎮静)や全身麻酔として使う
- 脳の作用を弱めるので、発作の抑制にも使える
イメージとしては、脳が休まる。これがプロポフォールを使う主な理由です。
副作用――循環と呼吸
血圧が下がる
一番有名なのが循環への作用です。血管抵抗が下がり、心収縮力も下がることで、低血圧を起こす可能性があります。血圧が下がりうる薬だと頭に置いてください。
気をつけたいのは、プロポフォールでは心拍数の代償性の上昇が起こりにくいことです。血圧が下がっても脈が速くなって補ってくれないので、低下がそのまま続きます。脱水・出血・高齢・心機能の落ちた動物では、この落ち込みがさらに大きくなります。
呼吸は必ず落ちる――無呼吸は「起こる前提」で準備する
換気抑制と導入直後の無呼吸(post-induction apnea)は、プロポフォールではほぼ必発と考えてください。速く入れるほど強く出ますが、ゆっくり入れても完全には防げません。オピオイドを併用しているとさらに増えます。
- 導入前に酸素化しておく
- 総量を60〜90秒かけて、効果を見ながら分けて入れる
- 挿管の準備と、バッグで換気できる態勢を整えてから投与を始める
導入直後の無呼吸に備え、挿管と換気の準備をしてから投与してください。
筋弛緩とミオクローヌス
とても良い筋弛緩作用があります。導入していくと力がふっと抜けて緊張がなくなり、最終的に口を開けて挿管できる――これはこの作用のおかげです。
ただし猫では、この筋弛緩があっても喉頭の反射は残ります。喉頭痙攣を防ぐには、声門に局所麻酔薬(リドカイン)を噴霧してから挿管してください。
逆向きの作用として、ミオクローヌス(体がピクンピクンと動く筋肉のけいれん)が見られることがあると言われます。導入中にも麻酔の後にも起こりえます。
補足 教科書には、ミオクローヌスはベンゾジアゼピン(ミダゾラムなど)では収まらないがケタミンでは収まる、と書かれています。メカニズムは分かりませんが、少し深めの麻酔にしていくと収まるのではないか、というのが私の個人的な解釈です。
鎮痛作用はない
プロポフォールに鎮痛作用はまったくありません。得られるのは意識の消失・忘却・筋弛緩です。痛みを伴う処置では、そこに鎮痛を別に足して使う薬だと覚えておくとよいと思います。
血管痛
プロポフォールは注射時に痛みが出ることがあり、血管痛と呼ばれます。起こりやすいのは細い血管に入れたときで、血管の外に漏れたことによる痛みではありません。対策は3つあります。
- できるだけ太い血管(静脈カテーテル)から入れる
- リドカインを少量、事前に静脈内投与しておく
- 流れている輸液ラインの側管から、希釈しながら入れる
帝王切開で使えるか
帝王切開の麻酔でも安全に使われると言われています。ただし胎児へ簡単に移行してしまう可能性があるのがプロポフォールの特徴です。
報告のなかには、導入に使ってすばやく胎児を取り出したあとには胎児の血中濃度がかなり低いのではないか、というものもあります。胎児のなかで代謝されるのか母体へ移行するのかは分かりませんが、どちらにしても導入薬としては比較的安全に使えると言われています。
ただし、安全と言われているのは「導入で1回入れる」使い方までです。プロポフォールのCRIで帝王切開の麻酔を維持するのは、胎盤を通過し続けて新生子の中枢・心肺を抑制するため勧められません。維持は吸入麻酔に切り替えてください。
プロポフォール症候群
人で報告されているものにプロポフォール症候群(propofol infusion syndrome, PRIS)があります。長い時間使っていくと、主に幼若な個体に出ることが知られています。中身は薬に反応しない徐脈から心停止に至るもので、これに代謝性アシドーシス、横紋筋融解、高脂血症、肝肥大・脂肪肝のいずれかが伴う、という定義です。
人での目安は4 mg/kg/時以上を48時間以上(低用量・短時間の報告例もあります)。麻酔維持の速度はこの数字を上回りますが、効いてくるのは「長さ」のほうです。問題になるのはICUで何十時間も鎮静を続けるような場面で、手術で数時間維持するのとは時間の桁が違います。
動物で報告があるかは分かりませんが、長時間の持続静脈内投与では少し気をつけなければいけない副作用かなと思っています。長く流す症例では、説明のつかない代謝性アシドーシスと、中性脂肪の上昇を見ておくのが早期発見につながります。
なぜ覚めるのか――代謝ではなく再分布
静脈内に入れると、まず血流に乗って血流の多い組織、主に脳へ行きます。だいたい10〜20秒で動物は眠くなってきます。
脳に移行したあと、薬は血流の分布がそれほど豊富でない組織へ再分布していきます。脳のなかの濃度が下がり、覚醒に至ります。
単回で入れたプロポフォールが切れるのは、薬が壊れたからではありません。脳にあった薬が、他の組織へ移っていくからです。
ただしこれは1回のボーラスの話です。CRIで長く流したあとは、組織に入った分を代謝で処理しきる必要があるので、覚醒を決めるのは再分布ではなく代謝の速さになります。猫で長時間TIVAの覚醒が延びるのは、これが理由です。
投与後にすぐ起きてしまう動物は、おそらくこの再分布の力がとても速いのだろうと考えられています。
体格と品種で覚め方が変わる
プロポフォールは脂溶性が高く、脂肪に溶けやすい薬なので、脂肪の多い動物では蓄積されることが知られています。
逆に、サイトハウンド(グレーハウンド、ウィペットなど)では覚醒が延びます。理由は2つあり、①再分布する先の脂肪組織が少ないこと、②肝臓でプロポフォールを分解する酵素(CYP2B11)に品種差があり代謝が遅いことです。入れる量そのものは雑種犬と変わらないとされ、変わるのは覚めるまでの時間です。
筋肉が多く脂肪の少ない動物では、プロポフォールに限らず作用が消えづらくなります。
代謝と排泄
再分布した先の組織、たとえば肝臓や肺に移ると、そこで代謝が始まります。肝臓以外の組織でも代謝されるのが、プロポフォールの大きな特徴の一つです。
代謝にはいろいろな経路があり、その一つがグルクロン酸抱合――プロポフォールを水に溶ける形に変えて、尿のなかへ出す経路です。最終的に、活性を失った代謝物が腎臓から排泄されます。
猫で持続投与を避ける2つの理由
猫はプロポフォールのクリアランスが犬の半分以下です。理由としてグルクロン酸抱合の能力が限られていることがよく挙げられますが、猫で代謝が遅い分子レベルの機序はまだ確定していません(犬と猫でCYP2Bの活性自体は同等という報告もあります)。
| 理由 | 何が起きるか |
|---|---|
| クリアランスが遅い | 投与時間が長くなるほど覚醒が延びる |
| 赤血球の酸化障害 | 連日・長時間の投与でハインツ小体が増える |
ハインツ小体は連日反復投与で3日目から有意に増えると報告されています。一方で、放射線治療の猫39頭に10〜12日連日麻酔をかけた比較試験では、ヘマトクリットの低下は臨床的に問題にならない範囲で3週後に回復し、ハインツ小体の増加も累積投与量とは関係しませんでした。
まとめると、単回の導入を避ける理由はありません。避けたいのは長時間のTIVAと、毎日繰り返す麻酔です。それが「猫のプロポフォールCRIはあまり推奨されないことが多い」と言われる中身です。
国内の2製品
日本で一般的に使われているのは、保存剤の入っていない製剤(講義ではマイランの製品)と、保存剤入りの「プロポフロ28」の2種類だと思います。
| 保存剤なし | プロポフロ28 | |
|---|---|---|
| 濃度 | 10 mg/1 mL(1%) | 10 mg/1 mL(1%) |
| 保存剤 | なし | ベンジルアルコール |
| 開封後 | 添付文書に従う(講義では1日以内、教科書の推奨は6〜24時間と幅があります) | 28日間 |
| 猫に使うか | 使う | 避ける |
| CRIで長時間流すか | 使う | 使わない |
濃度は同じです。「28」という数字は、保存剤が入っているので開封後28日間使えるという意味です。ただし違いは開封後の扱いだけでなく、「どの動物に、どの使い方で」までを分けます。
- 猫には保存剤なしを選びます。 猫はベンジルアルコールの代謝が犬より苦手で、メトヘモグロビン血症や保存剤による神経症状が報告されています。
- 長時間の持続投与(TIVA)には保存剤入りを使いません。 ベンジルアルコールが蓄積するためで、これは犬でも同じです。CRIで維持するときは保存剤なしの製剤を使ってください。
- 保存剤なしで細菌が問題になるのは、製剤が10%大豆油と1.2%精製卵リン脂質を含む脂肪乳剤で、そのまま細菌の培地になるからです。
無菌操作の実務 教科書が勧めているのは、①ゴム栓を70%イソプロピルアルコールで消毒し、乾いてから穿刺 ②使う直前に吸う(先に吸って置いておかない)③開けたバイアルは残量にかかわらずその日の症例で使い切るか廃棄する ④免疫抑制状態の患者には新しいバイアルを開ける――の4点です。講義では冷蔵保存を勧めていますが、冷蔵は汚染リスクを下げる手段であって、無菌操作の代わりにはなりません。
患者側の注意
プロポフォールは脂肪乳剤なので、高脂血症や膵炎のある動物では投与を避けるか、別の導入薬を検討します。長時間のCRIでもトリグリセリドが上がるため、何時間も流す症例では中性脂肪を見ておくと安心です。
補足 保存剤を含まない製剤は、開封後の細菌汚染に注意が要ります。使用期限・保管条件・承認対象動物は、製剤ごとの添付文書に従ってください。
まとめ
- 導入の薬。ルートはIVのみ、単回で2〜8分、CRIで維持もできる
- 用量は前投薬なしの数字。鎮静下や状態の悪い動物では大きく下がる
- GABA受容体に効いて脳を休める。全身麻酔・鎮静・発作の抑制に使える
- 代償は低血圧と無呼吸。無呼吸はほぼ必発と考え、60〜90秒かけて入れ、挿管と換気の準備をしてから始める
- 低血圧のとき、プロポフォールでは代償性の頻脈が出にくい
- 鎮痛作用はゼロ。得られるのは意識の消失・忘却・筋弛緩
- 単回なら覚めるのは再分布。CRIを長く流したあとは代謝の速さが覚醒を決める
- 猫はクリアランスが犬の半分以下。単回導入はよいが、長時間TIVAと連日反復は避ける
- 帝王切開で安全と言われているのは導入の1回まで。維持は吸入麻酔へ
- 2製品の違いは保存剤(ベンジルアルコール)の有無。猫と長時間TIVAには保存剤なしを選ぶ
次回も同じ枠――用量・ルート・作用時間・主作用・副作用・体内動態・製剤――で、次の1剤を見ていきます。
この記事の元になった講義
VT薬理学セミナー 第3回「プロポフォール:効き方と注意点」(12分30秒)
https://youtu.be/o-agnS3kJ6o
講師:風間 匠(DVM, MS, DACVAA/米国獣医麻酔疼痛管理専門医)
※本記事は2023年12月に収録した講義をもとに構成しています。薬の効き方や量の考え方は変わりませんが、製剤の入手性や法令上の扱いは収録後に変わっているものがあります。
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