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術後のメロキシカムは能書どおりで安全か用量より効くのは打つタイミング

公開 最終更新

術後にメロキシカムを1回打つとき、能書どおりの用量で本当に安全なのか。同僚からの質問をきっかけに、一次文献を読み直した記事です。結論は「用量を刻むより、打つ相手とタイミングを選ぶほうが効く」。犬の0.2 mg/kgを下げる根拠は乏しい一方、猫では低頻度でも重篤な急性腎障害の報告があり、血圧が安定した麻酔終了時に回す運用を私は採っています。読み終えるころには、次の症例でNSAIDをどのシリンジに置くかが決まります。

きっかけは、同僚からのこんな質問でした。

メタカム注射液の能書には術後鎮痛量として犬 0.2 mg/kg、猫 0.3 mg/kg と記載がある。ただ腎臓への影響を考えて、個人的には 0.1 mg/kg で使っている。術後1回だけなら能書どおりでも安全だろうか。

**結論から言うと、犬の 0.2 mg/kg は、脱水・低血圧がなく術中の平均動脈圧を 70 mmHg 以上に保てる症例であれば、下げる必要がありません。猫で 0.1 mg/kg にしているのも、そのまま続けて構いません。**ただし「1回だけなら安全」という問いの立て方そのものが、実は的を外しています。

猫で急性腎障害を起こした18頭の報告を読むと、13頭はラベル用量 0.3 mg/kg をそのまま受けていました。減量した症例でも起きています。用量という軸の上では、この問題は解けません。

代わりに効くレバーが3つあります。患者選択、投与タイミング、投与経路です。以下、なぜそう言えるのかを一次文献で追います。

そもそも「能書どおり」が国によって違う

この議論が噛み合いにくい理由の一つは、猫の承認用量が地域ごとに別物だからです。

地域 猫の注射用メロキシカム
日本 術前1回 皮下投与
EU・英国 0.2 mg/kg SC 単回 → 経口懸濁液 0.05 mg/kg を1日1回・4日間。または 0.3 mg/kg SC 単回(経口の追加処方をしない場合に限る)
豪州 0.3 mg/kg SC 単回
米国 0.3 mg/kg SC 単回のみ。以後いかなる経路でもメロキシカムの追加投与を禁止

しかも EU と英国は、2024年5月23日と6月18日にラベルを改訂しました。5 mg/mL 製剤の用法を 2 mg/mL 製剤に合わせる変更です。規制側の判断がこの1〜2年で動いている、という前提を持っておく必要があります。

推奨用量も文献ごとに割れています。教科書 Lumb & Jones' Veterinary Anesthesia and Analgesia 6版は第24章・第51章とも猫に 0.1 mg/kg を挙げ、薬物動態・薬力学モデルからの至適推定は 0.17 mg/kg です。一方 ISFM の2022年急性疼痛ガイドラインは周術期に 0.2 mg/kg SC 単回を中心値としています。ラベルは 0.3 です。

0.1 から 0.3 まで、3倍の幅があります。これが現在地です。

「1回なら安全か」の答えは、実は禁忌欄に書いてある

用量表を眺める前に、日本のメタカム 0.5% 注射液の禁忌を確認してください。筆頭に並ぶのがこれです。

  • 脱水症状、循環血液量減少、低血圧症
  • 腎・肝・心機能障害
  • 消化管潰瘍、出血傾向
  • 妊娠・授乳中
  • 6週齢未満、低体重(猫では 2 kg 未満)

併用を避けるべき薬剤として、ステロイド、他の NSAID、アミノグリコシド、利尿薬、抗凝固剤も挙がっています。

つまりメーカー自身が「腎灌流が落ちている動物には使うな」と明記しているわけです。今回の議論の大半は、この1行目に集約されます。0.1 にするか 0.2 にするかを悩む前に、この患者が該当しないかどうかで答えの8割が決まります。

そしてここが投与タイミングの話につながります。術前に打つと、術中に低血圧になった時点ではもう投与済みです。禁忌に当てはまるかどうかを判定する前に、薬が体内に入っています。この順序が問題なのです。

犬:0.2 mg/kg を下げる根拠は乏しい

犬で「0.2 mg/kg は大丈夫」と言える根拠は、実質2本のランダム化比較試験です。

Crandell 2004(Am J Vet Res 65:1384-90)は健常若齢ビーグル12頭のクロスオーバー試験です。メロキシカム 0.2 mg/kg を静脈内投与し、1時間後に麻酔導入。呼気終末イソフルランを 1.5 MAC に維持したまま、30分間の間欠的電気刺激を加えました。24時間後の糸球体濾過量、BUN、クレアチニンはいずれも生理食塩水群と差がありません。

Boström 2006(Vet Anaesth Analg 33:62-9)はもう一歩踏み込んでいます。健常ビーグル8頭にメロキシカム懸濁液 0.2 mg/kg を経口投与し、3時間後にアセプロマジン・チオペンタール・イソフルランで麻酔。平均動脈圧を 54 ± 7 mmHg まで意図的に落とした状態で、シンチグラフィによる糸球体濾過量を測定しました。それでも腎機能に有害な影響は出ていません。

低血圧下でも大丈夫だった、という点で Boström は強い証拠です。ただし限界が3つあります。

  1. 症例数が12頭と8頭で、しかも健常若齢ビーグルです。ただし言い方には注意が要ります。両試験ともクロスオーバーで糸球体濾過量という連続量を主要評価にしているので、「平均としての腎機能低下はない」はそれなりに言えます。言えないのは「まれな個体レベルの事象は起きない」のほうです。0件観察時の95%上限は rule of three で12頭なら約25%、8頭なら約38%。「起きなかった」ではなく「この規模では否定できない」が正確です
  2. 投与経路が静脈内と経口で、能書の皮下投与を検証した犬の試験ではありません。後述する批判の核心は「注射剤という剤形の問題」なので、ここは論点がずれています
  3. 追跡期間が試験ごとに違います。Crandell は導入24時間後の1点のみ、Boström は7日間の経時観察です。ここが効く理由は次に述べます

一方で、犬にも症例集積があります。Rogers-Smith 2020(J Small Anim Pract 61:363-367)は、英国で非緊急手術の全身麻酔後に急性腎障害を発症した、それまで健常な非高齢犬12頭を報告しました。全頭が 20 kg 超、年齢中央値17か月、再来までの中央値は術後4日です。12頭中10頭が周術期に注射用 NSAID を受けていました。

ただし著者らの結論は「犬種・術式・麻酔時間・周術期の薬剤選択・NSAID 投与のいずれとも明らかな関連はなく、この症例集積では確定的な因果は示せない」です。NSAID を名指しで否定している論文なので、「10頭が NSAID を受けていた」という数字だけを取り出すのは選択的引用になります。分母もありません。

この論文が効いてくるのは因果ではなく時間軸のほうです。急性腎障害が顕在化したのが術後中央値4日。Crandell の24時間観察は、この表現型を構造的に取り逃がす設計だということになります。Boström の7日追跡は期間としてはカバーしていますが、8頭です。

犬については「0.1 に下げる根拠は乏しい」までは言えます。「0.2 なら安全」と断定できる強さではありません。この区別は残しておいてください。

猫:三つの証拠が、それぞれ別の方向を向いている

犬と違い、猫は証拠が割れています。ここが論争の震源地です。

① Wun 2023 ― 18頭の急性腎障害

Wun ら 2023(Aust Vet J 101:90-98)は、豪州クイーンズランドの7施設のデータベース検索と著者らの同僚への照会で、注射用メロキシカム後に急性腎障害を起こした猫18頭を集めました。

  • 13/18 頭がラベル用量 0.3 mg/kg 皮下投与をそのまま、処置当日に受けている
  • 12/18 頭が全身麻酔または鎮静下での投与
  • 生存退院は14頭。4頭は死亡または安楽死
  • 投与日に高窒素血症がなかった猫が8頭。術前検査では予測できていない

併載されたアンケート(回答187名)では、89% が手術関連鎮痛に NSAID を日常使用し、そのうち 98% がメロキシカム、さらにその 84% が皮下投与でした。

著者らの結論は明確です。「猫への皮下メロキシカム処方を避けるよう強く推奨する。脱水および低血圧がありうる状況では特にそうである」

ただしこれは分母のない症例集積です。何頭に投与して18頭に起きたのかが分かりません。したがって用量ごとのリスク比較は原理的にできませんし、発生率も算出できません。

② Kongara 2020 ― 血圧を守れば影響なし

反対方向の証拠が Kongara ら 2020(Vet Anaesth Analg 47:631-636)です。健常猫24頭の歯科処置で、メロキシカム 0.2 mg/kg 皮下、カルプロフェン 4 mg/kg 皮下、生理食塩水の3群を比較しました。

平均動脈圧は全群で 60 mmHg を下回らず(メロキシカム群 73.7 mmHg)、イオヘキソールクリアランスによる糸球体濾過量も、近位尿細管障害マーカーである尿中 NAG も、群間・時点間で差がありませんでした。

猫・皮下投与・実際の臨床シナリオという三拍子が揃った、唯一の対抗証拠です。そして「血圧を守れるかどうかが効いている」という仮説を直接支えます。

ただし1群8頭では、4%程度の頻度の事象は検出できません。期待値にすると0.3頭です。「起きなかった」は「起きない」の証拠になりません。

③ Krekis 2024 ― 投与タイミングを直接比較した試験

そして最も興味深いのが Krekis ら 2024(J Vet Pharmacol Ther 47:175-186)です。投与タイミングそのものを比較したランダム化盲検比較試験で、しかも著者は論争の擁護側(King、Elliott、Pelligand)です。

猫60頭の避妊手術を5群×12頭に割り付けました。

薬剤 タイミング
MA メロキシカム 0.2 mg/kg 皮下 来院時
RA ロベナコキシブ 2 mg/kg 皮下 来院時
MI メロキシカム 導入時
RI ロベナコキシブ 導入時
RE ロベナコキシブ 手術終了時

結果は4つです。

  1. 腎機能マーカーには薬剤・タイミングとも影響なし。ただし導入時メロキシカム群の1頭が IRIS grade II の急性腎障害疑いとなった
  2. 血漿レニン活性は麻酔で上昇し(手術終了時 26.6、2時間後 10.0 ng/mL/h)、術後2時間の時点で来院時投与群のほうが導入時投与群より高いままだった(p=0.01)。著者らは COX 阻害下でもレニン・アンジオテンシン系が活性化した理由を「低血圧または手術刺激による可能性」としています
  3. 来院時投与群のほうが救援鎮痛を早く必要とした(p=0.033)
  4. 血清トロンボキサンはメロキシカムのほうがロベナコキシブより低下した(p=0.001)。COX-1 阻害はメロキシカムのほうが強い

設計上、注意すべき点が2つあります。「メロキシカムを手術終了時に」という群が存在しません。終了時投与を試したのはロベナコキシブだけです。したがって後述する「麻酔終了時にメロキシカムを打つ」という方針は、この試験では検証されていません。また各群12頭では急性腎障害は検出できません。

なぜメロキシカムに終了時群がないのか。共著者の King JN はロベナコキシブの薬理・安全性・有効性レビューを主導してきた研究者です。5群中3群がロベナコキシブで、終了時アームがロベナコキシブにだけ与えられています。読むときの前提として知っておく価値があります。なお私は原著の利益相反開示文を確認できていません(有料)。ここで述べているのは著者欄と既発表レビューから分かる事実関係までで、開示の有無を判断したものではありません。

そして結果3)の解釈には、私はブレーキをかけます。「早く打つほうが先制鎮痛で有利という説を否定した」とは読めません。理由が4つあります。

  • 16/24 は2剤の合算です。抄録から薬剤別に分解できません。猫でのロベナコキシブの血漿半減期は約1〜1.5時間、メロキシカムは15〜37時間です。来院時と導入時の1〜3時間差は、前者にとっては数半減期分、後者にとってはほぼ無視できます。タイミング効果が出るとしたら機序的にロベナコキシブ側で、しかも「炎症が起きる前に打つと、炎症が生じた頃には血漿濃度が落ちていて組織へ移行しにくい」というロベナコキシブ固有の薬物動態で説明が付いてしまいます(血漿半減期は短いが炎症滲出液中は約40時間、酸性ゆえ炎症組織にイオントラップされる)
  • 比較対照に RE 群が入っています。術後評価窓に最も近いタイミングで薬が入っている群を対照側に含めた比較です
  • そもそも MA も MI も切皮より前です。どちらも先制鎮痛にあたります。この試験が比較しているのは「先制のタイミングをどれだけ前倒しするか」であって、先制鎮痛の是非ではありません。真に切皮後なのは RE 群だけです
  • 主要評価項目は腎機能で、これは副次所見の名目 p 値です

私はこの論文の考察本文を読めていません(有料)。著者が薬物動態で説明していないかは未確認です。言えるのは「投与を来院時まで前倒ししても術後鎮痛は改善しなかった」までです。

論争の地図――2023年から3年続いている

ここまでの文献は、実は一つの論争の中に位置しています。

掲載誌 内容
2023 Aust Vet J 101:90-98 Wun ら、猫18頭の症例集積
2023 Aust Vet J 101:411-412 Goodwin・Monteiro・Grimm・Steagall が反論
2023 Aust Vet J 101:413-416 Wun・Malik が応答
2024 JVP 47:175-186 Krekis・King・Elliott・Pelligand、タイミング試験
2024 JVP 47:235-236 Malik・Wun ら、Letter
2024 JVP 47:237-238 Krekis・King・Pelligand ら、Reply
2025 VAA 52:730-736 Wun ら、Perspective(オープンアクセス)
2026 JVP 49:228-230 / 231-234 Wun ら論説と、Pelligand・Cole・Pang の Reply

批判側の主張は、注射用 NSAID が猫で低頻度ながら致死的な急性腎障害を起こしており、市販後調査の規模がそれを検出できるほど大きくないまま承認が続いている、というものです。

擁護側の主張は、報告されている症例には低血圧・脱水などの交絡があり、適切な血圧管理と輸液のもとでは腎機能への影響が証明されていない、というものです。この陣営には Steagall・Monteiro・Grimm も含まれます。

なお 2023年には ANZCVS の麻酔・鎮痛学分科会が「猫へのメロキシカム注射の周術期使用に関する臨床推奨」を technical bulletin として出しています。ただし査読論文ではなく、私は中身を確認できていません。

この論争は決着していません。どちらかが間違っているという書き方は、現時点ではできません。

ISFM 2022 は私の推奨と食い違う

擁護側の立場を代表するのが ISFM の2022年急性疼痛ガイドライン(Steagall ら, J Feline Med Surg 24:4-30)です。私がこれから述べる推奨と正面から食い違う部分があるので、先に正確に引いておきます。

  • 用量:Table 7 は 0.3 mg/kg 皮下単回を米国承認用量として挙げたうえで、「パネルはより低い用量を推奨する」として 0.2 mg/kg 皮下単回を示しています。0.1 ではありません
  • タイミング:「健常猫のルーチンな避妊去勢では、血圧をモニターし正常血液量であれば、NSAID は一般に術前投与でよい
  • 全体の立場:「有害作用を恐れて NSAID を省略することは推奨されない。疼痛管理を著しく損ないうる

つまり後述する私の運用(猫 0.1 mg/kg、麻酔終了時)は、ISFM より保守側に振っています。

私がそうする理由は、日本の一般診療で猫の術中血圧を安定して監視できる環境がまだ限られるからです。ISFM の前提条件――血圧モニターと正常血液量――が満たせるなら、0.2 mg/kg・術前投与でも筋は通ります。用量表だけを真似ても意味がありません。条件が満たせるかどうかで決めるべきです。

そして「省略はするな」の一文は重いものです。NSAID を抜くこと自体が福祉上の害になりえます。この記事をリスク回避の方向に読みすぎないでください。

数字で見ると、争点は「経口か注射か」に寄る

批判側が2025年の Perspective(Wun ら, Vet Anaesth Analg 52:730-736)で提示した市販後データを見ると、論点の重心が少し移動します。

欧州医薬品庁には2004年以降、猫でメロキシカムによる腎機能不全の疑いが900件超、犬で約700件報告されています。しかも欧州で獣医師が遭遇した有害事象のうち、実際に報告されるのは10%未満と推定されています。

英国 Veterinary Medicines Directorate のデータをもとにした予測(Hunt ら 2015)は次のとおりです。100万投与あたりの数字です。

腎機能不全 死亡
注射用メロキシカム 870(0.09%) 684(0.07%)
注射用ロベナコキシブ 442 1,325

ここで目を引くのは、注射用ロベナコキシブの予測死亡数がメロキシカムの約2倍である点です。COX 選択性の観点ではロベナコキシブのほうが有利なので、直感に反します。

ただしこの比較は、Hunt らの著者自身が警告しているものです。原著は「coxib と非 coxib の有害事象頻度の比較は、報告習慣の経時変化によって交絡しうる」と明記しています。承認からの経過年数の中央値は coxib が5年、非 coxib が15年で、経過年数と有害事象頻度には負の相関があります。新薬ほど報告が多くなる現象(Weber 効果)です。

したがって「ロベナコキシブのほうが危ない」とは読めません。読めるのは「注射用 NSAID の薬剤間比較は、このデータでは決着しない」までです。「メロキシカムが危ないならロベナコキシブに替えればよい」という単純な結論も、同じ理由で取れません。

より重要で、しかも交絡の影響を受けにくいのはこちらです。同じ薬剤でも、経口製剤の予測有害事象は一桁低いのです。嘔吐・腎機能不全・死亡のいずれも注射剤で有意に高頻度でした(p=0.043)。剤形の比較は同一薬剤内なので、承認年数の交絡がかかりません。

理由の候補として著者らが挙げるのが用量です。猫では注射のラベル用量 0.2〜0.3 mg/kg が、経口維持量 0.05 mg/kg の4〜6倍にあたります。ヒトでも高用量は NSAID 腎毒性のリスク因子です。なお犬は注射 0.2 に対し経口維持 0.1 なので、倍率は2倍にとどまります。この「4〜6倍」は猫の話で、犬にそのまま当てはめてはいけません。

ただし市販後データには検出バイアスがあります。注射剤は院内で獣医師が投与するため有害事象として報告されやすく、経口薬は自宅投与なので上がりにくいのです。この非対称は差し引いて読む必要があります。

私が読み違えた2点

一次文献を読むうえで引っかかりやすい箇所が2つありました。私自身、最初はどちらも誤読しています。

1つ目は、用量の「範囲」を「分布」と取り違えたことです。2025年の Perspective には「投与された用量(0.1〜0.3 mg/kg)はラベル用量以下だった」と書かれています。これを読んで私は「低用量でも起きているのだから、減量は無意味だ」と考えました。

しかし原著の抄録を確認すると、13/18 頭がラベル用量 0.3 mg/kg をそのまま受けています。0.1〜0.3 は範囲であって分布ではありません。「0.1 でも起こりうる」までは言えますが、「下げても無駄」は導けません。しかも分母がないので、用量間の比較はそもそも不可能です。

2つ目は、ロベナコキシブへの切り替えを安全策と考え、それを市販後データで覆したつもりになったことです。

まず COX-1/COX-2 選択性の比を根拠に、ロベナコキシブが腎に優しいはずだと考えました(メロキシカム 3.5 に対しロベナコキシブ 502.3。後者は COX-1 をほとんど阻害しません)。次に前掲の市販後データで注射用ロベナコキシブの予測死亡数がメロキシカムを上回るのを見て、「薬理学的な理屈が実データに否定された」と結論しました。

これが早計でした。Hunt らの原著を読むと、著者自身が coxib と非 coxib の比較を「報告習慣の経時変化で交絡しうる」と警告しています。私は自分の推奨を覆すためにデータを引きましたが、そのデータを作った本人が「その使い方はするな」と書いていました。

教訓は2つです。都合の悪いデータほど、原著の limitation を読むこと。そして薬理学的推論と市販後データが食い違って見えるときは、まず比較の妥当性を疑うこと。現時点で言えるのは、注射用 NSAID の薬剤間比較は決着していない、ということだけです。

私はこうしている

以上を踏まえた運用です。エビデンスが未決着の部分を含むので、これは私の判断であって標準治療ではありません。

第一に、患者選択を最優先します。脱水、低血圧、腎疾患、ステロイド併用のいずれかがあれば打ちません。能書の禁忌欄がそのまま判断基準になります。

第二に、打つならリスク症例では術前を避け、血圧が安定した麻酔終了時に回します。この方針は、批判側の著者ら自身が2025年の Perspective の結論で述べているものです。

注射用 NSAID は慎重に使用すべきである。特に猫では、フィールド条件下で数千頭規模の適切に設計された研究が無条件の安全性を示すまでは。周術期に処方する場合は、適切な腎灌流の維持と、麻酔終了時(血圧が安定し出血リスクが最小の時点)での投与に特別な注意を払うことを強調する。動物が麻酔から回復し、食べて飲めるようになってから低用量の経口 NSAID を組み込む代替プロトコルを勧める。

読み方に注意が要ります。Wun らの第一推奨は「代替プロトコル+覚醒後の低用量経口」であって、麻酔終了時投与は「周術期に打つのなら」という条件付きの次善策です。正確に要約するなら「最も厳しい側でさえ、周術期に打つなら終了時と言っている」までになります。

両陣営が終了時投与に収束しているわけではありません。2026年の Pelligand・Cole・Pang の Reply は「術前・術中投与か、術後のみか」を文脈次第の選択として扱っていますし、前掲のとおり ISFM 2022 は健常猫の術前投与を明示的に許容しています。

第三に、術中の平均動脈圧を 70 mmHg 以上に保ちます。ACVAA の2025年モニタリングガイドライン(Bailey ら, Vet Anaesth Analg 52:377-385)は介入基準を 60〜65 mmHg 未満としていますが、これは床であって目標ではありません。NSAID を載せる局面で 60〜65 を目標に据えるのは薄いと考えています。ただし 70 は、麻酔深度を下げる・輸液を適正化する・必要なら強心薬を使うことで達成する数字です。α作動薬で末梢を締めて数字だけ作ると、圧は上がっても腎血流は下がりえます。

あわせて測定方法にも注意が要ります。猫のオシロメトリック血圧は小型患者で精度が落ちます。AAFP の2018年ガイドラインは信頼性をオシロメトリ「++」、ドプラ「+++」、直接法「++++」と評価しています。「62 出ているから腎灌流は保てた」という判断は、裏づけがないと危ういです。

第四に、鎮痛の主軸を局所ブロックと完全μアゴニストに置きます。批判側の Wun らでさえ、注射用 NSAID がブトルファノールやブプレノルフィンと同等以上であることは認めています。しかしメサドンやフェンタニルに優るというデータはありません。局所麻酔、α2作動薬ケタミンを組み込めば、注射用 NSAID を必須と考える根拠は弱くなります。

第五に、退院後に腎パネルを1回再検します。Wun 2023 で18頭中8頭が投与日に高窒素血症を示していなかったことを考えると、術前検査だけでは予測できません。安価な保険です。

用量については、犬 0.2 mg/kg、猫 0.1 mg/kg を使っています。猫の 0.1 は ISFM 2022 の 0.2 より低く、ラベルの 0.3 より大幅に低い選択です。教科書と薬物動態推定を根拠にしていますが、この幅の中でどこを取るかは、施設のモニタリング体制によって変わってよいと考えています。血圧を直接法で測り輸液も十分な施設と、そうでない施設で同じ数字を使う理由はありません。

日本で運用するときの注意

最後に、日本特有の制約を2つ。

麻酔終了時投与は日本ではオフラベルです。メタカム注射液の能書は術前1回・皮下投与を指定しています。臨床的に妥当な判断であっても、能書から外れる以上はカルテに理由を記載しておくべきです。

猫で覚醒後に内服へ切り替えるのは、日本では「オフラベル」では済みません。メタカム 0.05% 経口懸濁液(猫)の効能は「運動器疾患に伴う急性炎症・疼痛の緩和」であり、術後疼痛の適応がありません。加えて注射液の能書は「猫へのメロキシカム又は他の NSAIDs の追加経口投与はしないこと」と明示的に禁じています。米国でも、猫での反復投与は急性腎不全・死亡を理由に枠組み警告の対象です。

前掲の Wun らの引用には「覚醒後に低用量の経口 NSAID を組み込む代替プロトコル」が含まれますが、日本ではこれを能書が禁じている行為として扱ってください。海外の推奨をそのまま持ち込めない箇所です。

冒頭の質問に戻ります。術後1回だけなら能書どおりでも安全か。答えは「その患者が禁忌に該当しないなら、犬では概ね安全と考えてよい。猫では低頻度ながら重篤な例が報告されており、用量を刻むより打つ相手とタイミングを選ぶほうが効く」です。

次の症例で試せることが1つあるとすれば、NSAID を前投与のシリンジから外して、抜管前のトレイに移すことだと思います。

まとめ

  • 用量を刻むより、打つ相手とタイミングを選ぶほうが効きます。能書の禁忌欄(脱水・低血圧・腎肝心機能障害・ステロイド併用)が、そのまま患者選択の基準です
  • 犬の 0.2 mg/kg を下げる根拠は乏しい一方、「0.2 なら安全」と断定できる強さでもありません
  • 猫は証拠が割れています。Wun 2023 は18頭中13頭がラベル用量 0.3 mg/kg のままで起きており、Kongara 2020 は血圧を守れた条件では差が出ず(ただし1群8頭)、Krekis 2024 では前倒し投与のほうがむしろ救援鎮痛を早く要しました
  • 私の運用は5つです。患者選択を最優先し、リスク症例では術前を避けて麻酔終了時に回し、術中の平均動脈圧を 70 mmHg 以上に保ち、鎮痛の主軸を局所ブロックと完全μアゴニストに置き、退院後に腎パネルを1回再検します
  • 日本では麻酔終了時投与はオフラベルで、猫の覚醒後の経口追加は能書が禁じています。海外の推奨をそのまま持ち込めない箇所です
  • ただし NSAID を抜くこと自体が福祉上の害になりえます。この記事をリスク回避の方向に読みすぎないでください

参考文献

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