本文へスキップ
PetNap

TEEでの心拍出量評価|VTIとAo径から術中の「流れ」を読む

公開 1 views

麻酔中の血圧が正常でも、組織に届く血流が足りているとは限りません。この記事は、経食道心エコー(TEE)を使っている、またはこれから使いたい獣医師に向けて書きました。VTI と大動脈径(Ao 径)から1回拍出量と心拍出量を見積もる考え方と、測り方の落とし穴を説明します。読み終えると、「血圧が下がった」ときに、流れが足りないのか血管が開いているのかを分けて考えられるようになります。

血圧だけでは「流れ」は分からない

平均動脈圧(MAP)は、おおまかには心拍出量と血管の抵抗のかけ算で決まります(厳密には CVP の分を差し引きます)。体血管抵抗(SVR)は (MAP − CVP) × 80 ÷ 心拍出量 で求めます〔Miller's 10e 第32章〕。つまり、心拍出量が落ちても血管が締まれば、MAP は保たれます。

吸入麻酔薬は血管を広げるうえ、濃度に応じて心筋の収縮力も抑えます。α2 作動薬は血管を締め、反射性の徐脈も加わって心拍出量を下げます。どちらも、MAP の数字だけでは流れの変化を見落とします。人の麻酔でも、心拍出量を臨床所見だけで推し量るのは不正確だと指摘されています〔Miller's 10e 第32章〕。

そこで役に立つのが、TEE で測る大動脈の血流です。

VTI × Ao 断面積 = 1回拍出量

VTI(velocity time integral)は、1拍のあいだに血液が大動脈を進む距離です。ドプラ波形の下の面積として測り、単位は cm です。これに大動脈の断面積をかけると、1回拍出量(SV)になります。

  • 断面積(cm²)= π ×(Ao 径 ÷ 2)²
  • SV(mL)= 断面積 × VTI
  • 心拍出量(CO)= SV × 心拍数

これは「流れに入った量と出た量は等しい」という質量保存の考え方です〔Vet Echo 2e 第4章〕。犬では、大動脈の内腔をトレースして断面積を求めると、熱希釈法との相関係数が 0.93 と報告されています〔Vet Echo 2e 第4章〕。ただし、相関が高いことは、絶対値が一致することを意味しません。体重で割れば心係数(CI)になり、体格の違う症例どうしでも比べやすくなります。

測り方で数字は大きくずれる

この計算は単純ですが、入力の測り方で結果が大きく変わります。とくに次の3点に注意してください。

1つめは、VTI を何拍で取るかです。陽圧換気中は、呼吸に合わせて1拍ごとの VTI が変わります。呼気終末にそろえて測るのが原則で、研究では3拍の平均が使われています〔de Oliveira 2021〕。教科書は5拍以上の平均を勧めており、不整脈があれば5拍以上を使ってください〔Vet Echo 2e 第4章〕。

2つめは、ドプラのカーソルの向きです。カーソルが血流と平行でないと、VTI は低く出ます。左室が短く写った画像でも同じことが起きます。すると SV と心拍出量を少なく見積もります。「循環血液量が足りない」と誤って判断しかねません〔Vet Echo 2e 第3章〕。

3つめは、Ao 径です。断面積は Ao 径の2乗で計算するので、径の誤差が大きく効きます〔Miller's 10e 第33章〕。たとえば Ao 径が 8 mm の小型犬では、0.5 mm ずれただけで SV が約13%変わります。

絶対値より「変化」を見る

エコーで求めた心拍出量は、熱希釈法と置き換えて使えるほどの精度はありません。一方で、同じ症例の中での変化(トレンド)を追う目的には使えるとされています〔Miller's 10e 第33章〕。

実際の判断でも、1回の数字の高い低いより、「前の測定から何%変わったか」を見るほうが確実です。ただし、これは犬での話です。

猫では、エコーで求めた心拍出量は熱希釈法との差が大きく、ある研究では平均で27〜29%高く出ました。ずれの幅は、下に約15%・上に約70%に及びました。変化の向きの一致率も72〜80%にとどまり、著者らは絶対値の代用にも変化の追跡にも使えないと結論しています〔Pypendop 2024〕。猫では数値を判断の主役にせず、ほかのモニターと合わせて補助的に使ってください。

輸液が効いたかを判定する

TEE の VTI は、輸液の判断にも使えます。ただし、「輸液前に予測する値」と「輸液後に判定する値」は別物です。この2つを混同しないことが大切です。

輸液前の予測に使うのは、呼吸に合わせた VTI の揺れ(ΔVTI)です。機械換気下の犬50頭を TEE で調べた研究があります。ΔVTI が 10.65% を超えると、輸液で SV が増えると予測できました(特異度100%)〔Gonçalves 2020〕。条件は、筋弛緩下の調節呼吸、1回換気量 8〜10 mL/kg、洞調律、閉胸です。

ただし、感度は65%にとどまります。ΔVTI が低くても、輸液で SV が増える症例は少なくありません。低い値を「輸液は要らない」根拠にしてはいけません。自発呼吸の症例では、ΔVTI はそもそも使えません。同じ研究では、動脈ラインの脈圧変動(PPV)のほうが判定しにくい幅が狭く、精度で優れていました〔Gonçalves 2020〕。動脈ラインがあれば、PPV もあわせて見てください。

輸液後の判定には、輸液の前後で VTI がどれだけ増えたかを見ます。Ao 径は変わらないので、VTI の変化率はそのまま SV の変化率になります。イソフルラン麻酔下の健常犬48頭を、経胸壁エコー(剣状突起下)で調べた研究があります。VTI の増加が 14.7% を超えると、実際に SV が増えた症例を見分けられました〔de Oliveira 2021〕。1回換気量 12 mL/kg の調節呼吸下での値で、判定しにくい幅は 10.8〜17.6% でした。そのため、17.6% 以上増えれば「反応あり」、10.8〜17.6% なら「判定保留」と読むのが安全です。同じ研究で、MAP の変化は輸液への反応をほとんど予測しませんでした〔de Oliveira 2021〕。

判定は、ボーラスを入れ終えた直後の測定で行います。途中で昇圧薬を始めたり、体位を変えたりした場合は判定しません。輸血製剤はゆっくり入れるため、この判定の対象外です。

症例で見る

架空の症例で、流れを追ってみます。10 kg の柴犬、脾臓摘出術。イソフルラン麻酔下で、Ao 径は 12 mm です。

TEE Hemo Tracker の結果画面。CI、SVRI と血行動態の判定が表示されている

9時00分の時点では、CI 153 mL/min/kg、MAP 70 mmHg で安定していました。9時15分、脾臓の操作中に MAP が 58 mmHg まで下がりました。このとき SV は 17.0 mL から 12.4 mL へ約27%落ちていました。心拍数は 90 から 105 回/分へ上がっています。CI は 153 から 131 mL/min/kg へ下がり、SVRI はほぼ変わっていません。血管が開いたのではなく、流れそのものが減ったと考えられます。

そこで前負荷の不足を疑い、乳酸リンゲル液 10 mL/kg を5分で入れました。入れ終えた直後の9時20分、SV は 15.0 mL に戻りました。輸液前と比べて 21% の増加で、「反応あり」と判定できます。

測定履歴。輸液ボーラスの記録に「SV +21%・反応あり」の判定が付いている

筆者はこうした計算と記録を、自作のツール(TEE Hemo Tracker)で行っています。測定値を入れると心拍出量と血管抵抗を計算し、介入の前後を比べて効果を表示します。ツールがなくても、上の式と判定の目安があれば同じ考え方で判断できます。

限界と注意

ここで扱った数字はすべて、VTI と Ao 径から計算した推定値です。直接測った値ではありません。洞調律で、カーソルが血流と平行に置けていることが前提です。

また、判定の目安はほとんどが健常犬の研究から来ています。小型犬では Ao 径の誤差が大きく効くため、絶対値を当てにせず変化を読んでください。猫では、変化の追跡にも使えないという報告があります。最終的な判断は、ほかのモニターや術野の情報と合わせて行います。

まとめ

  • MAP が保たれていても、心拍出量が落ちていることがある
  • SV は Ao 断面積 × VTI、心拍出量は SV × 心拍数で見積もれる
  • VTI は呼気終末に3〜5拍をそろえ、カーソルを血流と平行に置いて測る
  • Ao 径の誤差は2乗で効くため、小型犬ほど絶対値の誤差が大きい
  • 犬ではエコーの心拍出量を絶対値よりトレンドで読む
  • 猫では変化の追跡にも使えないという報告があり、補助的に使う
  • 輸液前の予測は ΔVTI 10.65%、輸液後の判定は VTI 17.6% 以上の増加が目安
  • ΔVTI が低いことは「輸液は要らない」根拠にならない

PetNapで続けて学ぶ

関連記事

新しい記事のお知らせを受け取る

獣医麻酔・疼痛管理の新しい記事と講義動画を公開したときに、メールでお知らせします。登録は無料です。

この続きを、深く学びませんか?

有料動画・有料記事がすべて見放題になり、専門医への質問箱も使えるメンバーシップを開講準備中です。開講通知の無料登録を受け付けています。今すぐ学びたい方は、公開中の無料動画をご覧ください。